コラム

椎間板ヘルニア治療「ヘルニコア」の効果は?費用や成功率、副作用を解説

腰や足のしびれが、薬やリハビリを続けても改善しない場合があります。「手術は怖いけど、このまま痛みを我慢するのも限界だ」と悩みを抱えていませんか?長引く痛みは、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。長引く痛みの改善が期待できる治療法が、注射による新しい治療法「ヘルニコア」です。

ヘルニコアは、臨床試験で約70~80%の有効性が報告されている治療法で、手術なしで痛みの原因に直接作用します。この記事では、日帰りも可能なヘルニコア治療の効果や実際の費用、知っておくべき副作用まで、わかりやすく解説します。つらい症状に悩まれている方は、まずは一歩踏み出して、専門医に相談してみてください。

当院では、椎間板ヘルニアをはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治

大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師

経歴: 徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務

専門分野:脊椎・脊髄外科

資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医

椎間板ヘルニアの注射治療「ヘルニコア」の3つの特徴

椎間板ヘルニアの注射治療「ヘルニコア」の特徴は以下の3つです。

  • 髄核を溶かして神経の圧迫を緩和
  • 手術不要・身体への負担が少ない
  • 他の保存療法で効果がなかった方に適応

髄核を溶かして神経の圧迫を緩和

ヘルニコア治療の一番の特徴は、痛みの根本原因に直接働きかける点です。背骨には、骨と骨の間でクッションの役割をする「椎間板」があります。椎間板の中心には「髄核(ずいかく)」というゼリー状の組織があります。髄核が、何らかの原因で外に飛び出してしまい、近くにある神経を圧迫します。

神経の圧迫が、椎間板ヘルニアによる痛みやしびれの原因です。ヘルニコアは、飛び出した髄核を小さくする効果が期待できる薬です。有効成分である「コンドリアーゼ」という酵素が、髄核を小さくする働きを担います。治療は、以下の仕組みで進みます。

  1. 薬の注入:レントゲンで身体の内部を見ながら、原因となっている椎間板に直接ヘルニコアを注射する
  2. 髄核の分解:注入されたコンドリアーゼ酵素が、髄核の水分を保つ「プロテオグリカン」という成分を分解する
  3. 椎間板の内圧低下:水分が減った髄核は少しずつ小さくなり、椎間板内部の圧力が下がる
  4. 神経への圧迫が軽減:飛び出していた髄核が小さくなることで神経への圧迫が和らぎ、痛みやしびれなどの症状が改善する

手術ではヘルニアを物理的に取り除きます。ヘルニコアは酵素の力で髄核を溶かし、症状を和らげる治療法です。原因に直接アプローチすることで症状の改善を目指します。

手術不要・身体への負担が少ない

手術は、傷跡が残ったり、長期間の入院やリハビリが必要になったりします。ヘルニコアは注射による治療のため、手術に比べて身体への負担が少ないです。ヘルニコア治療の身体的なメリットは、以下のとおりです。

  • 短い治療時間:注射にかかる時間は、約15~30分
  • 小さな傷跡:傷跡は注射針の跡が残る程度
  • 筋肉や骨へのダメージがない:背中の筋肉を切ったり骨を削ったりしないため、回復が早い
  • 短い入院期間:治療は局所麻酔のため、日帰りもしくは1泊2日程度

以上の特徴から、仕事や家庭の事情で長期の休みが取れない方にも適しています。ご高齢の方や、他の病気で手術のリスクが高い方にも選択肢となります。身体への負担を最小限に抑えながら、つらい症状の改善を目指せる点が大きな魅力です。

脊椎疾患の治療において、低侵襲治療への注目が高まっています。脊椎内視鏡手術に関するシステマティックレビューでは、従来の開放手術と比較して、内視鏡を用いた手術の利点が報告されています。 医療技術の進歩の中で、ヘルニコア治療は注射のみで行える、低侵襲な選択肢として位置づけられています。

他の保存療法で効果がなかった方に適応

ヘルニコアは、保存療法と手術療法の中間に位置づけられる治療法です。適応には厳格な条件があり、医師による詳細な診断が必要です。以下の「保存療法」を一定期間続けても、効果が見られなかった方が対象です。

  • 痛み止めなどの薬(薬物療法)
  • コルセットの装着
  • リハビリテーション
  • 神経ブロック注射

重要な条件が、ヘルニアの「タイプ」です。ヘルニコアが期待できるのは「後縦靱帯下脱出型(こうじゅうじんたいかだっしゅつがた)」というヘルニアに限られます。背骨の後ろ側には「後縦靱帯」という丈夫な膜が通っています。この膜の下に、飛び出した髄核がとどまっている状態が、後縦靱帯下脱出型です。

ヘルニコアの対象とならないヘルニアの例は、以下のとおりです。

  • 遊離脱出型髄核が後縦靱帯を突き破り、神経の通り道(脊柱管)に完全に流れ出てしまった場合
  • 骨の変形が強い場合:骨のトゲ(骨棘:こつきょく)など、骨自体の変形により神経が圧迫されている状態

ヘルニアのタイプは、MRIなどの精密検査で正確に診断します。専門の医師に相談し、ご自身の状態にヘルニコアが適しているか、見極めてもらうことが治療の第一歩です。

ヘルニコア治療費の目安は約6万円〜

ヘルニコアによる治療は、国に認められた方法のため、健康保険が使えます。年齢や収入に応じて、窓口で支払う金額は1〜3割になります。金額には、ヘルニコアの薬代や注射の技術料、検査・入院の費用などが含まれます。

ヘルニコア自体の値段(薬価)は、約8万3千円と決められています。自己負担額の目安は、以下のとおりです。

自己負担割合 費用の目安
3割負担 約6〜7万円
2割負担 約4〜5万円
1割負担 約2〜3万円

医療費が高額になっても「高額療養費制度」を利用できます。高額療養費制度は、1か月の医療費の支払いが上限額を超えた場合に、超えた分が戻ってくる国の制度です。民間の医療保険に入っている方は、手術給付金の対象となることもあります。ご自身の契約内容を、事前に保険会社へ確認しておくと安心です。

ヘルニコア治療の成功率は70~80%

臨床試験によると、約70~80%の患者さんで症状の改善が報告されていますが、すべての方に効果が期待できるわけではありません。具体的には、つらい足の痛みやしびれといった症状の改善が見込めます。残りの2~3割の方は、十分な効果が得られないこともあります。

ヘルニコアはすぐに効果が出る薬ではありません。注射後、神経の圧迫が和らぐまでには時間がかかるため、効果を実感できるまでに1~3か月ほどかかります。治療後すぐに痛みが消えなくても、焦らずに経過を見守ることが大切です。ご自身の症状にヘルニコア治療が合うか、医師とよく相談して決めましょう。

ヘルニコアの注意すべき副作用

ヘルニコア治療で注意すべき副作用について、以下の3つを解説します。

  • アナフィラキシー
  • 腰椎不安定性
  • 注射部位の疼痛・局所的変化

アナフィラキシー

アナフィラキシーは、ヘルニコアの副作用の中で最も注意が必要なものです。薬に対するアレルギー反応が、急に全身に現れる状態を指します。アナフィラキシーの主な症状は、以下のとおりです。

  • 皮膚の症状:全身に広がるじんましん・皮膚の赤み・強いかゆみ
  • 呼吸器の症状:急に息苦しくなる・声がかすれる・くしゃみや咳が止まらなくなる
  • 消化器の症状:腹痛・吐き気・嘔吐
  • 循環器の症状:血圧低下・めまい・意識がもうろうとする

アナフィラキシーは、ヘルニコアを初めて使う方にも起こる可能性があります。過去に何らかのアレルギーを経験したことがある方は、慎重な検討が必要です。当院では、皆さまに安全に治療を受けていただくため、以下の対策を徹底しています。

  • 治療前の丁寧な問診:過去のアレルギー歴(薬、食べ物など)
  • 治療後の経過観察:注射後は院内で30分〜1時間ほど安静にし、体調の変化がないか慎重に確認
  • 緊急時への備え:万が一に備え、迅速に対応できる緊急薬剤や医療機器を常に準備

患者さんご自身も、アレルギーについて必ず医師にお伝えください。

腰椎不安定性

ヘルニコアは、飛び出した髄核(ずいかく)を溶かして神経の圧迫を和らげる薬です。薬の働きによって、椎間板の質が変化したり、高さが少し低くなったりします。その結果、腰の骨である「腰椎(ようつい)」が、少しぐらつくことがあります。「腰椎不安定性」と呼びます。

腰椎が不安定になると、腰に鈍い痛みを感じたり、長時間の同じ姿勢が難しかったりする場合もあります。ただし、ヘルニコアが原因で、日常生活に支障が出るほどの不安定性が生じることはまれです。治療で得られるメリットが、リスクを上回ると判断した場合にのみ、ヘルニコア治療をおすすめしています。

治療後、腰椎が安定するまでの間は、腰に負担をかける激しい運動は避けます。必要に応じてコルセットを着けていただくことで、リスクをさらに下げられます。治療後の生活については、医師や理学療法士が具体的に指導します。

腰椎の不安定性がどのくらい症状に影響するかは人によって異なり、腰椎椎間板ヘルニアの進行度や症状のレベルによっても変わります。あらかじめ症状の特徴を理解しておくことで、治療選択や生活上の注意点を把握しやすくなります。以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に整理し、それぞれに適した治療法について解説しています。
>>腰椎椎間板ヘルニアの症状レベル別の特徴!治療法も解説

注射部位の疼痛・局所的変化

アナフィラキシーなど重い副作用とは別に、治療後に一時的な症状もみられます。薬が身体に反応しているサインでもあります。多くは数日~1週間程度で自然に良くなるものがほとんどです。よくみられる一時的な症状は、以下のとおりです。

  • 腰痛や足の痛みの悪化
  • 注射した場所の痛みや腫れ
  • 発疹、発熱、頭痛など

ほとんどの場合が一時的なので、過度に心配はいりません。医師の指示に従って解熱鎮痛剤を使用することが可能です。もし症状が長く続いたり、だんだん強くなったりするなど、ご不安な点があれば、我慢せずにいつでもご相談ください。

姫路大室整形外科における日帰り治療の流れ

当院では、お仕事やご家庭の事情を考慮し、日帰りでのヘルニコア治療を行います。ご来院からご帰宅まで、安全を第一に考えた流れを詳しくご説明します。治療当日のイメージを持つことで、安心して臨んでいただければ幸いです。

  1. 来院・準備
  2. 麻酔
  3. ヘルニコアの注入
  4. 安静・経過観察
  5. 診察・ご帰宅

受付後、リラックスできる検査着に着替えていただきます。安全に治療を行うため、血圧や体温を測り、体調に変化がないかを確認します。治療を行う部屋へ移動し、ベッドにうつ伏せになります。注射する場所の痛みをなくすため、局所麻酔を行います。レントゲンで身体の内部をリアルタイムに確認しながら、注射針を進めます。

神経などを傷つけないよう、ヘルニアのある場所に正確に薬を届けます。位置を慎重に確認し、ヘルニコアを注入します。治療時間は約15分です。治療後は、リカバリールームで1〜2時間ほど安静にしていただきます。アナフィラキシーなど急なアレルギー反応が起きないかを確認する大切な時間です。

看護師が付き添い、体調の変化を慎重に観察します。安静期間が終わったら、医師が再度診察し、お身体の状態に問題がないか確認します。帰宅後の過ごし方や注意点をご説明し、治療は終了です。治療自体は短時間ですが、安全確保のため、万全の体制で臨んでいます。

当院は、脊椎センター・人工関節センターの2つを軸にしたクリニックです。腰や関節の痛み、リハビリなどでお悩みの方へ、専門医が丁寧に相談に応じます。JR姫路駅からは無料送迎バスを利用できますので、お気軽にご来院ください。
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ヘルニコア治療後の生活におけるポイント

ヘルニコア治療後の生活におけるポイントとして、以下の3つを解説します。

  • 安静期間は約1週間
  • 職種別の仕事復帰の目安
  • 再発を防ぐためのセルフケア

安静期間は約1週間

ヘルニコア治療後は、約1週間は腰を休ませることが大切です。注入された酵素が飛び出した髄核に作用して小さくなるには時間が必要です。この間に無理をすると腰に余計な負担がかかり、効果が十分に得られない可能性があります。

しかし、全く動かないでいると、腰を支える大切な筋肉が弱ってしまうこともあります。この期間は、腰に負担をかける行動を避け「腰を大切にいたわる」という意識で過ごしましょう。安静期間中は以下のことに気をつけましょう。

  • 急な動きや腰をひねる動作
  • 前かがみの姿勢
  • 重い物を持つ
  • 長時間の同じ姿勢

治療後は、腰椎を安定させるためにコルセットを着用することがあります。コルセットは、腰のぐらつきを抑え、不用意な動きから腰を守ってくれるサポーターです。医師の指示に従って正しく着用し、安静期間を乗り切りましょう。

職種別の仕事復帰の目安

仕事への復帰時期は、医師と相談して決めることが重要です。一般的な目安はありますが、仕事内容によって大きく異なり、ご自身の体調によっても前後します。自己判断で早く復帰すると、症状の悪化や再発につながるリスクがあるため注意が必要です。職種別の仕事復帰の目安は以下のとおりです。

職種 仕事内容の例 復帰の目安 復帰後の注意点
デスクワーク中心 事務職・プログラマーなど 治療後2日〜1週間 ・1時間に1回は立ち上がり、軽いストレッチをする
・椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばした姿勢を保つ
・クッションなどを活用して腰への負担を減らす
立ち仕事・軽作業 接客業・販売員・軽作業など 治療後1~2週間 ・こまめに休憩をとり、座る時間も作る
・片足に体重をかけ続けるのを避ける
・衝撃を吸収するクッション性の高い靴を選ぶ
力仕事 建設業・運送業・介護職など 治療後1か月以降
(医師の許可が必須)
・急に重いものを持たないようにする
・復帰直後は作業量を減らすなど、職場に相談する
・物を持ち上げる際は、腰ではなく膝を使う

重いものを持ち運ぶような力仕事の方は、慎重な判断が必要です。椎間板が十分に安定する前に大きな負荷がかかると、再び髄核が飛び出してしまう可能性があります。可能であれば、職場の上司や同僚に相談し、一時的にでも負担の少ない業務に変えてもらうなど、段階的な復帰を検討することが大切です。

以下の記事では、椎間板ヘルニアの方におすすめのストレッチ方法や、実践時の注意点について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアのストレッチ方法|症状を和らげるポイントも解説

再発を防ぐためのセルフケア

再発を防ぐには、腰に負担をかけない生活を習慣づけることが大切です。症状が改善しても、以前と同じ生活に戻ってしまうと再発リスクが高まります。毎日の意識が、腰を守る第一歩になります。

再発予防のセルフケアのポイントは、以下のとおりです。

  • 背筋を伸ばして正しい姿勢を保つ
  • 無理のない範囲で適度な運動を行う
  • 食事管理で体重をコントロールする
  • 禁煙して血流を改善する
  • 冷え対策で筋肉の緊張を防ぐ

セルフケアは一度やれば終わりではなく、継続が何よりも大切です。無理なくできることから始め、日々の習慣として取り入れていきましょう。

ただし、再発予防に取り組んでいても、日常生活の中で痛みが急に強くなることがあります。そのような場合に落ち着いて対応できるよう、応急処置の方法を知っておくと安心です。以下の記事では、椎間板ヘルニアによる痛みを和らげる方法や家庭でできる応急処置について解説しています。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法|家庭でできる応急処置も紹介

まとめ

「手術は避けたいけど、痛みは我慢できない」と悩む方に、ヘルニコアは身体への負担が少ない選択肢です。成功率は約70~80%と高い効果が期待できる一方、どなたでも受けられる治療ではなく、副作用のリスクもゼロではありません。

大切なのは、ご自身のヘルニアの状態を正確に知り、適切な治療法を見つけることです。当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、腰や関節の痛みがある方へ、専門医が丁寧に相談に応じます。長引く痛みやしびれを諦める前に、まずは一度、専門の医師に相談してみませんか。
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参考文献