コラム

椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法|家庭でできる応急処置も紹介

腰や足の激しい痛みは、椎間板ヘルニアが原因の可能性があります。厚生労働省の調査では、腰痛を訴える人は多く、椎間板ヘルニアは主な原因の一つとされています。椎間板ヘルニアによる痛みは、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

この記事では、冷却療法やストレッチ、安静、正しい姿勢といった痛みを和らげる方法を紹介します。家庭でできる応急処置や医療機関での治療法、整形外科の選び方、セカンドオピニオンの活用法、長引く痛みへの対処法まで解説します。

適切な知識を持つことで、症状の慢性化を防ぎ、痛みと上手に向き合うことが期待できます。

当院では、椎間板ヘルニアをはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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椎間板ヘルニアの痛みを和らげる3つの方法

椎間板ヘルニアの痛みを和らげる代表的な方法は以下の3つです。

  • 安静で痛みを悪化させない
  • ストレッチで筋肉を緩める
  • 正しい姿勢で腰に負担をかけない

安静で痛みを悪化させない

痛みが強いときは、安静が重要です。発症直後の急性期には、医師の指示に従いながら、必要に応じて安静にします。無理な動きは炎症を悪化させ、痛みが強まる可能性があります。安静時のポイントは以下のとおりです。

  • 横になるときは、膝を軽く曲げて腰の負担を軽減する
  • 動くときは、コルセットやサポーターで腰を支える
  • 痛みが落ち着いたら、無理のない範囲で体を動かす

コルセットやサポーターなどの長時間の着用は、腹筋や背筋などの体幹の筋力低下につながる可能性があるので、医師の指示に従いましょう。長期間の安静は、筋力低下や関節の柔軟性低下を招き、回復を遅らせる可能性があります。散歩など軽い運動から始め、徐々に活動量を増やしていくことが大切です。

ストレッチで筋肉を緩める

ストレッチは、硬くなった筋肉を伸ばし、血行を促進することで、痛みを緩和する効果が期待できます痛みが落ち着いてきたら、ストレッチを始めましょう。主なストレッチは以下のとおりです。

  • 太ももの裏のストレッチ
  • お尻のストレッチ
  • 股関節のストレッチ

太ももの裏(ハムストリングス)のストレッチ方法は、以下の手順で行います。

  1. 仰向けに寝る
  2. 片方の足の裏にバスタオルや長めのひもを引っかける
  3. ひもを手で持ち、その足をゆっくりと上に持ち上げる
  4. この状態を30秒から1分程度キープする
  5. 反対側も同じように行う

このストレッチは起きた後とお風呂上がりの1日2回を目安に行うのがおすすめです。膝をできるだけ伸ばしたまま、足のつま先を自分の顔のほうへ引き寄せると、太ももの裏がよりしっかりと伸びます。

お尻のストレッチは、仰向けに寝て、片方の膝を抱え込みます。反対側の足は伸ばしたままです。抱え込んだ膝を胸に近づけるように息を吐きながらゆっくりと引き寄せます。

股関節のストレッチは、仰向けに寝て、両膝を立てます。片方の足をもう片方の太ももに乗せ、手で太ももを押さえながら、息を吐きながらゆっくりと床に近づけます。痛みを感じない範囲で、1回15~30秒程度を目安に朝晩など数回行うと効果的です。

正しい姿勢で腰に負担をかけない

正しい姿勢は、痛みの予防や軽減に役立ちます。以下のポイントを意識しましょう。

  • 立つとき:背筋を伸ばし、あごを引き、お腹に軽く力を入れる
  • 座るとき:椅子に深く腰掛け、背もたれにもたれ、足裏を床につける
  • 仰向けで寝るとき:膝の下にクッションを置き、膝を軽く曲げる
  • 横向きで寝るとき:膝を軽く曲げ、抱き枕などを抱える

立つときは、猫背にならないように注意し、耳や肩、腰、くるぶしが一直線になるように意識しましょう。長時間同じ姿勢を続けると筋肉の緊張や血行不良を招きます。1時間に1回は立ち上がって軽く体を動かすよう心がけましょう。

家庭でできる応急処置4選

家庭でできる椎間板ヘルニアの応急処置を4つ紹介します。

  • サポーターで腰を固定する
  • 寝姿勢を変えて痛みを軽減する
  • 家庭でできる簡単なストレッチと軽い体操を行う
  • 市販薬や湿布を活用する

サポーターで腰を固定する

サポーターは、腰椎を支え、安定させることで痛みを軽減する効果が期待できます。ただし、長期使用は筋力低下を招く可能性があるため、医師の指導のもとで使用することをおすすめします。コルセットタイプやベルトタイプなど、さまざまな種類があるので、体型や症状に合わせて選びましょう。

装着時は締め付けすぎに注意しましょう。血行が悪化し、痛みが増す可能性があります。痛みが落ち着いてきたら徐々に外すことが重要です。サポーターは補助的な役割のため、無理は避け、痛みが強いときは安静に過ごしましょう。

寝姿勢を変えて痛みを軽減する

寝姿勢は痛みの緩和に大きく関わります。仰向けは腰への負担がかかりやすいため、横向きがおすすめです。横向きで寝るときは、両膝を軽く曲げ、抱き枕やクッションなどを膝の間に挟むと、腰椎への負担をさらに軽減できます。

寝具は柔らかすぎず硬すぎない、適度な硬さのものを選びましょう。柔らかすぎる布団は腰が沈み込みやすく、逆に硬すぎる布団は体が緊張しやすいため、どちらも腰への負担を増大させる可能性があります。

家庭でできる簡単なストレッチと軽い体操を行う

痛みが少し落ち着いてきたら、簡単なストレッチや軽い体操を行うのも効果的です。ストレッチは、硬くなった筋肉をほぐし、血行を促進する効果があります。血行が促進されると、筋肉や神経への酸素供給が改善され、痛みの緩和が期待されます。

軽い体操は、腰周りの筋肉を鍛え、腰椎を支える力を強化するのに役立ちます。腰周りの筋肉が強くなると、腰椎への負担が軽減され、痛みを予防する効果も期待できます。

ストレッチの間違ったやり方は、逆に症状を悪化させる恐れがあります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの方におすすめのストレッチ方法や、実践時の注意点について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアのストレッチ方法|症状を和らげるポイントも解説

市販薬や湿布を活用する

市販薬や湿布も、痛みを和らげるのに役立ちます。市販薬には、痛み止めや炎症を抑える成分が含まれているものがあります。アセトアミノフェンやイブプロフェンといった成分は、痛みや炎症を軽減する効果が期待できます。

湿布には、冷却効果のあるものと温熱効果のあるものがあるため、ご自身の症状に合わせて選びましょう。痛みが強い初期段階では、冷却効果のある湿布がおすすめです。炎症が落ち着いた後は、温熱効果のある湿布で血行を促進しましょう。

長期間使用しても効果が見られない場合や、症状が悪化する場合は、医療機関を受診しましょう。持病がある方や他の薬を服用している方は、事前に医師や薬剤師に相談することが大切です。

医療機関での治療法

医療機関で受けられる主な治療法は、以下のとおりです。

  • 牽引療法(椎間を広げて神経圧迫を軽減)
  • ブロック注射(強い痛みをピンポイントで抑える)
  • 理学療法(リハビリ・筋力維持と柔軟性の改善)
  • 手術療法(保存療法で改善しない場合)

牽引療法(椎間を広げて神経圧迫を軽減)

牽引療法とは、機械を用いて腰を優しく引っ張ることで、椎間板にかかる圧力を軽減し、神経の圧迫を軽減する治療法です。背骨は、椎骨と呼ばれる骨が積み重なってできており、椎骨と椎骨の間にはクッションの役割を果たす椎間板が存在します。

椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が飛び出すことで、周囲の神経を圧迫し、痛みやしびれなどの症状を引き起こします。牽引療法は、飛び出した椎間板を元の位置に戻すサポートを行い、神経への圧迫を軽減することを目的としています。ただし、効果には個人差があります。

マニュアルセラピーと呼ばれる、理学療法士による徒手的な治療法も存在します。患部を直接手で触れ、関節の動きを改善したり、筋肉の緊張を和らげたりすることで、痛みを軽減する治療法です。研究によると、マニュアルセラピーは腰椎椎間板ヘルニア患者の不安や運動恐怖症を軽減する効果があることが示されています。

どの治療法が適しているかは、患者さんの症状や状態によって異なるので、医師とよく相談し、ご自身の症状に合った治療法を選択することが大切です。

症状の程度によって治療の選択肢やアプローチも異なるため、自分がどのレベルに該当するのかを知っておくことはとても重要です。以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に分類し、それぞれに合った治療法について詳しく解説しています。
>>腰椎椎間板ヘルニアの症状レベル別の特徴!治療法も解説

神経ブロック注射(強い痛みをピンポイントで抑える)

神経ブロック注射とは、痛みを引き起こしている神経周辺に直接薬剤を注射する治療法です。注射する薬剤には、炎症を抑える薬や、痛みを伝える神経の働きを抑える薬などがあります。神経ブロック注射は即効性が高いため、特に強い痛みがある場合に有効です。

神経ブロック注射には、神経根ブロック、硬膜外ブロックなど、いくつかの種類があります。症状や画像診断にもとづき医師が最適な方法を選択します。神経根ブロックは、特定の神経根から出ている痛みやしびれを軽減するために用いられます。硬膜外ブロックは、脊髄神経全体に作用し、広範囲の痛みを緩和するために用いられます。

理学療法(リハビリ・筋力維持と柔軟性の改善)

理学療法とは、運動療法や温熱療法、電気療法などを組み合わせて、痛みを軽減し、体の機能を回復させる治療法です。椎間板ヘルニアの場合、腹筋や背筋などの体幹の筋肉を鍛えることで、腰への負担を軽減し、再発を予防する効果が期待できます。ストレッチによって筋肉の柔軟性を高めることで、腰の動きをスムーズにし、痛みを和らげます。

理学療法士は、個々の状態に合わせて、適切な運動プログラムを作成します。腰痛体操やストレッチなど、家庭でもできる簡単な運動を指導したり、専門的な機器を用いた治療を行ったりします。理学療法は継続的に取り組むことで、より効果的に症状を改善し、再発を予防することが期待できます。

研究では、Fu’s皮下鍼療法(鍼治療の一種)が、腰椎椎間板ヘルニア患者の痛みや動きの改善、生活の質向上に有効な治療法であることが示唆されました。

手術療法(保存療法で改善しない場合)

保存療法で症状が改善しない場合や、神経症状が重度の場合、手術療法が検討されます。手術療法には、椎間板ヘルニアの程度や部位、患者さんの状態に合わせてさまざまな種類があります。顕微鏡を用いて椎間板の一部を取り除く椎間板摘出術、内視鏡を用いて行う内視鏡下手術などが代表的です。

近年では、低侵襲な手術法も開発されており、体への負担が少ない手術も可能になってきています。手術は症状の改善が期待できる一方で、感染症や神経損傷などのリスクも伴います。

専門医選びのポイント

専門医選びのポイントについて、以下の内容を解説します。

  • 初診は整形外科がおすすめな理由
  • 椎間板ヘルニアに詳しい医師を見つける方法
  • セカンドオピニオンを取るべきタイミングと判断基準

初診は整形外科がおすすめな理由

整形外科は、骨や関節、筋肉、神経など体の運動機能を司る「運動器」の疾患を専門とする診療科です。椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間にある椎間板が飛び出し、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。

椎間板ヘルニアの疑いがある場合、まずは整形外科を受診することをおすすめします。整形外科では、問診や診察に加え、レントゲンやMRI、CTなどの画像検査を行い、椎間板ヘルニアの確定診断を行います。検査により、ヘルニアの大きさや位置、神経への圧迫の程度などを正確に把握できます。

整形外科医は、保存療法(薬物療法、理学療法、装具療法など)から手術療法まで、幅広い治療法の知識と経験を持っています。患者さんの状態に合わせた最適な治療を提供することが可能です。

椎間板ヘルニアに詳しい医師を見つける方法

整形外科の中でも、特に脊椎外科を専門とする医師は、椎間板ヘルニアの治療に精通しています。「脊椎脊髄病医」や「脊椎脊髄外科専門医」「脊椎脊髄外科指導医」といった資格を持つ医師は、専門性の高い知識と技術を習得している証です。専門医を探す際には、資格の有無を確認すると安心です。

日本整形外科学会や日本脊椎脊髄病学会などのWebサイトで、専門医を検索することもできます。学会は、専門医の認定や研修を行っており、信頼できる情報源となります。所属学会の情報は、医師の専門性を知るうえで重要な手がかりとなります。

病院のWebサイトには、医師の専門分野や経歴、治療実績などが掲載されている場合もあります。受診前に医師の専門性や経験を確認することで、安心して治療を受けられます。

口コミサイトや知人からの情報も参考になる場合がありますが、情報の信憑性には注意が必要です。最終的には、ご自身の目で医師の対応や説明などを確認し、信頼できる医師かどうかを判断することが重要です。

セカンドオピニオンを受けるべきタイミングと判断基準

セカンドオピニオンとは、現在受けている治療について、他の医師の意見を聞くことです。主な検討のタイミングは以下のとおりです。

  • 現在の治療に満足していない、効果を感じられない場合
  • 診断や治療方針に疑問や不安がある場合
  • 手術療法を勧められたが、迷っている場合
  • 他の治療法の可能性を探りたい場合

薬物療法や理学療法を続けているにもかかわらず、痛みが改善しない、あるいは悪化している場合などは、セカンドオピニオンを検討してみましょう。医師の説明に納得できない部分があったり、治療方針に不安を感じたりする場合も検討することをおすすめします。

手術療法は体への負担が大きいため、他の医師の意見を聞くことで、手術の必要性やリスク、代替治療の可能性などを改めて検討できます。どのような治療法があるのか、より自分に合った治療法がないかを知りたい場合は、セカンドオピニオンが有効です。

セカンドオピニオンを受ける際は、現在の主治医に相談し紹介状を書いてもらうことが望ましいです。紹介状には、これまでの治療経過や検査結果などが記載されており、セカンドオピニオンを受ける医師にとって貴重な情報源になります。セカンドオピニオンは患者さんの権利として認められており、不安の解消や治療法選択の助けになります。

足の麻痺や排尿障害があるときはすぐに受診

足のしびれや麻痺、排尿障害は、神経が圧迫されている可能性があります。急な症状や悪化がみられた場合は、すぐに医療機関を受診してください。「馬尾症候群」という深刻な状態の可能性もあります。

馬尾症候群は、脊柱管(背骨の中を通る神経の通り道)の中の神経の束が圧迫されることで、膀胱や直腸の機能障害、足の麻痺やしびれなどの症状を引き起こします。放置すると後遺症が残る可能性があるため、早急な医療対応が必要です。以下のような症状がある場合は我慢せず、直ちに医療機関を受診しましょう。

  • 尿や便が出にくい
  • 尿や便が漏れる
  • 足に力が入らない
  • 足の感覚が鈍くなる
  • 会陰部(肛門と性器の間)にしびれや違和感がある

まとめ

椎間板ヘルニアの痛みを和らげるには、急性期は患部を冷やし、安静を保つことが大切です。痛みが落ち着いてきたら、ストレッチや軽い運動で筋肉をほぐし、腰への負担を減らすよう心がけましょう。

家庭での応急処置には、サポーターや湿布の活用、寝姿勢の工夫が効果的です。痛みが長引く場合は整形外科、特に脊椎外科の専門医に相談し、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しましょう。

足のしびれや排尿障害などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。日常生活では正しい姿勢を意識し、インナーマッスルを鍛え、バランスの良い食事や適度な運動を心がけることが、再発予防につながります。つらい痛みを我慢せず、適切なケアで快適な生活を取り戻しましょう。

症状が急激に悪化し、歩けないほどの激痛に見舞われた場合は、より早急な対処が必要です。以下の記事では、椎間板ヘルニアで歩行困難になるほどの激痛が出た際の応急処置や、緊急受診の目安について詳しく解説しています。
>>【椎間板ヘルニア】激痛で歩けないときの緊急対処法と受診目安

参考文献