頸椎症性神経根症とは?症状の特徴や原因、治療法を解説
首から腕にかけて電気が走るような痛みを感じることはありませんか。こうした症状がある場合「頸椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)」の可能性があります。40代以降に多くみられる疾患です。加齢による骨や椎間板の変化に、長時間のデスクワークやスマートフォン操作などの影響が加わると考えられています。
頸椎症性神経根症は、適切な治療により症状の改善がみられる可能性があります。この記事では、原因から保存療法、手術療法までをわかりやすく解説します。正しい知識を持つことが、症状緩和への第一歩です。
当院では、頸椎症性神経根症をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
頸椎症性神経根症とは神経根を圧迫して生じる疾患
頸椎症性神経根症とは、加齢による頸椎の変形によって起こる疾患です。骨のクッションである椎間板が変性したり、骨の縁にトゲ状の突起(骨棘:こつきょく)が形成されたりすることで神経根が圧迫され、首から腕にかけて痛みやしびれを生じます。
首の骨「頸椎」は7つの骨が積み重なっており、中央には脳から全身へ指令を伝える神経の束「脊髄」が通っています。それぞれの骨の間から枝分かれした神経根が左右の腕へ伸び、感覚や運動を支えています。重要な役割を担う神経根が圧迫されることで、首や肩、腕にかけて痛みやしびれが現れるのが頸椎症性神経根症の特徴です。
頸椎症性「脊髄症」との違い
同じ頸椎の疾患でも、圧迫される部位によって病名や症状が異なります。主な違いは以下のとおりです。
| 病名 | 圧迫される部位 | 主な症状 |
| 頸椎症性神経根症 | 神経の枝(神経根) | 片方の腕や手の痛み・しびれ・筋力低下 |
| 頸椎症性脊髄症 | 神経の幹(脊髄) | 両手のしびれ、筋力低下、手指巧緻運動障害(手の使いにくさ)、歩行困難、排尿障害 |
神経の「枝」が圧迫されるか「幹」が圧迫されるかで、症状が大きく異なります。自身の症状の特徴を理解することが、適切な治療につながる第一歩です。
頚椎のトラブルといっても、神経根が圧迫されるものと脊髄が圧迫されるものでは、症状の重さや進行の仕方が大きく変わります。頚椎症性脊髄症について、より詳しく症状や治療方法を知りたい方は、以下の記事が参考になります。
>>頚椎症性脊髄症とは?症状の進行は早い?原因や手術・薬物による治療法を解説
頸椎症性神経根症の主な原因
頸椎症性神経根症の主な原因である加齢と生活習慣について解説します。
加齢
頸椎症性神経根症の主な原因の一つは、年齢を重ねることで生じる首の骨(頸椎)や周囲組織の変化です。首は長年にわたり重い頭を支えているため、少しずつ負担が蓄積します。40~50代以降に症状が現れやすく、首の内部では以下の変化が起こります。
- 椎間板の変化(クッションの劣化)
- 骨棘の形成(骨の突起)
- 靭帯の変化(組織の硬化)
骨と骨の間でクッションの役割を果たす椎間板は、水分を多く含むのが特徴です。加齢により水分が減少すると、弾力が失われて薄くなり、椎間板が変性して神経を圧迫する原因になります。椎間板が薄くなると、頸椎に負荷がかかり、骨棘が形成されます。骨棘が神経の通り道を狭め、圧迫を引き起こすことがあります。
骨と骨をつなぐ靭帯は、加齢により厚く硬くなる場合があります。神経の通り道を狭め、圧迫の一因となります。加齢による変化は、誰にでも起こりうる自然な現象です。
生活習慣
姿勢以外にも、日常の何気ない生活習慣が首に負担をかけ、知らないうちに頸椎へ影響を与えている場合があります。仕事やスポーツ、睡眠中の環境も原因となることがあります。頸椎へ影響を与えやすい主な生活習慣は、以下のとおりです。
- 職業
- スポーツ
- 睡眠環境
長時間の運転や重い荷物の運搬、上を向く作業が多い仕事(内装業、植木職人など)は首に大きな負担をかけます。ラグビーや柔道など首に衝撃が加わる競技は注意が必要です。ゴルフやテニスのように首をひねる動作が多いスポーツも、負担となる場合があります。
高すぎる、または低すぎる枕は、睡眠中に首へ負担をかけ続けます。うつ伏せ寝やソファでの仮眠など、不自然な体勢で寝る習慣も避けましょう。生活習慣は、加齢による変化という「基盤」にさらなる負担を加える要因となります。日常生活を見直し、少しずつ改善することが症状の緩和や再発予防につながります。
頸椎症性神経根症の主な症状
頸椎症性神経根症の主な症状について、以下の2つを解説します。
- 首・肩・腕・指に広がる痛みやしびれ
- 頸椎椎間板ヘルニアや胸郭出口症候群との症状の違い
首・肩・腕・指に広がる痛みやしびれ
頸椎症性神経根症で多くみられる症状は、首から肩、腕、指先へ広がる痛みやしびれです。痛みの感じ方には個人差があり、以下のように表現されることがあります。
- 電気が走るようなピリピリとした痛み
- 焼けるようなジンジンとした痛み
- 針で刺すようなチクチクとした痛み
- 重だるい鈍い痛み
じっとしていても痛みが続くことがありますが、日常生活の中で特定の動作によって症状が強くなる傾向があります。圧迫されている神経の部位によって、症状が出る範囲が異なります。神経にはそれぞれ担当する領域があり、圧迫された場所に応じて痛みやしびれが現れます。
痛みのある腕を頭の後ろに持っていくと痛みが和らぐことがあります。神経の通り道が一時的に広がり、圧迫が軽減するためと考えられています。頸椎症性神経根症に特徴的なサインの一つです。
首の関節や神経に問題がある場合、原因に応じた治療や対策が必要になります。以下の記事では、首の付け根の痛みの原因や特徴についてわかりやすく解説しています。
>>首の付け根が痛い原因は?症状の特徴や効果が期待できる改善法を解説
頸椎椎間板ヘルニアや胸郭出口症候群との症状の違い
首から腕にかけての痛みやしびれは、頸椎症性神経根症以外の病気でも起こることがあります。症状が似ているのが「頸椎椎間板ヘルニア」と「胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)」です。症状が似ていても、原因が異なれば治療法も異なります。疾患との違いを理解しておくことが大切です。
主な頸部疾患の特徴を以下の比較表にまとめました。
| 病名 | 主な原因 | 症状が出やすい年齢 | 症状の特徴 |
| 頸椎症性神経根症 | 加齢による骨の変形(骨のトゲ) | 40代以降 | 首を後ろに反らすと悪化しやすく、比較的ゆっくり進行する |
| 頸椎椎間板ヘルニア | 椎間板が飛び出して神経を圧迫 | 20〜40代 | 突然発症することが多く、首の動きで強い痛みが出る |
| 胸郭出口症候群 | 首と胸の間で神経や血管が圧迫される | なで肩の女性や筋肉質な男性 | 腕を上げる動作でしびれやだるさが悪化しやすい |
症状は似ていても原因は異なります。正確な診断を受けるためには、整形外科などで詳しい検査を行うことが重要です。
頸椎椎間板ヘルニアは、発症メカニズムや治療法が神経根症と異なります。以下の記事では、頸椎椎間板ヘルニアの症状や治療法について詳しく解説しています。
>>頸椎椎間板ヘルニアの症状と治療法!首に負担をかける生活習慣や対策を解説
頸椎症性神経根症の検査
頸椎症性神経根症の原因を特定するためには、いくつかの検査を組み合わせて診断を行います。主な検査方法は「レントゲン・MRIによる画像診断」「神経学的検査」の2つです。
レントゲン・MRIによる画像診断
身体の内部を画像で確認し、痛みやしびれの原因を明確にします。主に行われるのは「レントゲン検査」と「MRI検査」の2種類です。基本となるのが、骨の状態を調べるレントゲン検査であり、主に以下の点を確認します。
- 骨の変形:加齢によってできる骨棘の有無を調べる
- 骨のすき間:椎間板のすき間が狭くなっていないかを確認する
- 骨の並び:首の骨全体が自然なカーブを保っているかを評価する
レントゲンの結果から、頸椎に加齢による変化が生じているかどうかを把握できます。MRI検査は、身体の断面画像を撮影する検査で、神経や筋肉などの軟部組織を詳しく観察できます。MRI検査では、以下のポイントを確認します。
- 神経の圧迫:痛みやしびれの原因となる神経の場所や程度を確認する
- 椎間板の状態:椎間板の変形や突出を調べる
神経がどの部位で、どの程度圧迫されているか、椎間板が変形または突出していないかを確認します。
神経学的検査
神経の圧迫が確認されても症状が出ない場合もあるため、画像診断のみで診断が確定するわけではありません。実際に神経が正常に働いているかを調べる神経学的検査が重要です。主な検査内容は次のとおりです。
- 感覚の検査
- 筋力の検査
- 反射の検査(深部腱反射)
- 誘発テスト(スパーリングテストなど)
筆や指先で腕や手の皮膚に軽く触れ、感覚が鈍くなっている部分や過敏になっている部分がないかを確認します。医師が加える力に対して腕や指を動かし、筋力の低下がないかを調べます。特定の筋肉が弱っている場合は、障害されている神経根の部位を推定することが可能です。
反射の検査では、打腱器と呼ばれるハンマーで、ひじや手首を軽く叩き、筋肉が反射的に動く反応を観察します。誘発テストは、首をゆっくり後ろに反らしたり、症状のある側へ傾けたりして、痛みやしびれが再現されるかを確認します。再現性の有無によって、圧迫されている神経の部位を特定する手がかりとなります。
診察で得られた情報と画像検査の結果を総合的に組み合わせることで、どの神経が原因で症状が出ているのかを正確に診断できます。
頸椎症性神経根症の治療法
治療は身体への負担が少ない保存療法から始めるのが一般的です。症状の改善がみられない場合には、次の段階として手術療法を検討します。主な治療法は以下のとおりです。
- 保存療法(薬物療法・理学療法・装具療法・神経ブロック)
- 改善しない場合の手術療法(前方固定術・後方除圧術)
保存療法(薬物療法・理学療法・装具療法・神経ブロック)
保存療法の目的は、神経の炎症を抑えて痛みやしびれを軽減し、首への負担を減らすことです。神経の圧迫による炎症が落ち着けば、症状は自然と緩和していきます。治療は身体への負担が少ない方法を中心に、主に以下の4つの方法を組み合わせて、症状の改善を目指します。
- 薬物療法:炎症を抑える消炎鎮痛薬や神経の興奮を鎮める薬、神経の回復を助けるビタミンB12製剤などを使用する
- 理学療法:姿勢の改善やストレッチ、筋力トレーニングで首や肩の筋肉を整える
- 装具療法:頸椎カラーを短期間装着して安静を保ち、神経の刺激を軽減する
- 神経ブロック注射:神経の伝達を一時的に遮断し、痛みを抑える
保存療法では、治療を段階的に行い、症状の緩和を目指します。
改善しない場合の手術療法(前方固定術・後方除圧術)
数か月間、保存療法を続けても痛みが緩和しない場合や、腕や指の力が弱くなっていく(麻痺が進行する)場合は、手術療法を検討します。手術では、神経を圧迫している骨の突起などを取り除き、圧迫を解除します。症状の改善が期待できますが、回復の程度には個人差があります。主な手術方法は以下のとおりです。
| 手術方法 | アプローチ | 特徴 |
| 前方固定術 | 首の前方から切開 | ・神経を圧迫している椎間板や骨の突起を除去する ・骨を移植したり人工物を使用したりして骨同士を固定し、安定させる |
| 後方除圧術 | 首の後方から切開 | ・神経の通り道である椎間孔を削って広げ、圧迫を取り除く ・骨を固定しない場合もある |
腕の筋力低下(運動麻痺)を伴う患者さんを対象とした研究では、前方固定術と後方除圧術の最終的な筋力回復率に有意差はなかったと報告があります。医療機関では、MRIなどの検査結果と症状を総合的に判断し、適切な手術方法を選択します。手術法の決定にあたっては、担当医と十分に相談することが大切です。
治療期間の目安
治療期間は、症状の強さや選択する治療法によって異なります。いずれの場合も一定の時間が必要であり、医師の指示に従い継続して取り組むことが大切です。
保存療法では、薬の服用やリハビリを始めてから数週間〜数か月で症状が軽くなることがあります。保存療法により約80%の方に改善がみられたとの報告もありますが、回復の速度には個人差があります。痛みが落ち着いた後は、再発予防のためにリハビリを続けることが重要です。
手術療法の場合、神経の圧迫を取り除くことで痛みの軽減が期待できます。しびれや筋力低下の回復には時間を要することがあります。術後は神経が一時的に腫れ、症状がぶり返すこともありますが、通常1〜3か月で落ち着きます。筋力の回復には3〜6か月、場合によっては1年ほどかかることもあります。焦らず、リハビリを継続することが回復への近道です。
まとめ
首から腕にかけて走る痛みやしびれは不安を伴いますが、多くは加齢による姿勢や生活習慣の影響が重なって起こります。頸椎症性神経根症は、多くの場合、手術せずに行う保存療法で症状が軽減する可能性があります。症状が強い場合や筋力低下を伴う場合には、手術が必要になることもあります。
似た症状を示す病気もあるため、自己判断せず医療機関での診察を受けることが大切です。首から腕にかけての痛みやしびれが続くときは、整形外科で相談し、早めに原因を確かめましょう。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、首の痛みやしびれ、腕のだるさなど、頸椎症性神経根症が疑われる症状に対して、専門医が丁寧に相談に応じます。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
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参考文献
- Hiroyuki Ishiguro, Shota Takenaka, Shuichi Hamamoto, Masaki Hoshiyama, Hiroyuki Tsukazaki, Seiji Okada, Takashi Kaito. Comparison of anterior spinal fusion and posterior cervical foraminotomy for cervical spondylotic radiculopathy in terms of postoperative recovery of upper-limb motor deficits. Journal of Clinical Neuroscience, 2024, 129, 110873, p.110873
- Donald R Murphy, Eric L Hurwitz, Amy Gregory, Ronald Clary. A nonsurgical approach to the management of patients with cervical radiculopathy: a prospective observational cohort study. J Manipulative Physiol Ther, 2006, 29, 4, p.279-287
