心疾患と整形外科手術 〜内科的視点から③
安心・安全な手術を受けるために
シリーズ 3
安心・安全な手術を受けるために シリーズ 3回目は、整形外科手術と持病について、
患者さんからよく質問のある心疾患をテーマに取り上げます。
Q:心臓の病気を過去にしたことがありますが
手術はできますか?
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A:心臓の病気の種類や重症度、治療が上手くいっているかによって対応が変わります。
1. 患者さんの状態から見る 周術期の心血管・心臓関連死亡リスク
過去の研究から、以下のような赤信号や黄色信号のようなリスク因子を持つと、
手術中や術後30日の心臓・血管の合併症と心臓関連の死亡率が高くなることが知られています。
※ 周術期とは、手術が決定した外来から入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰までの、患者さんの術中だけでなく手術前後を含めた一連の期間を示します。
● 赤信号
下記の状態に1つでも当てはまれば、循環器内科に紹介し、心疾患の治療を優先させ、
落ち着いてから手術を行うことが望ましいです。
- ①不安定な冠動脈疾患(30日以内の心筋梗塞、不安定狭心症、高度の狭心症)
- ②非代償性心不全(安静時でも心不全や狭心症よ症状がある、新規発症の心不全、悪化中の心不全)
- ③血圧が保てない不整脈
- ④重症で症状のある弁膜症(重症の大動脈弁狭窄症、症状のある僧帽弁狭窄症)
● 黄色信号
下記の状態に1つでも当てはまれば、循環器内科に紹介し心機能検査等を行うことがあります。
もしくは、かかりつけ医に過去の病歴や直近の心臓関連の検査について、
情報提供を依頼することがあります。
- ①30日以上経過した心筋梗塞
- ②安定した軽度の狭心症
- ③慢性代償性心不全/心不全の既往
- ④脳卒中
- ⑤糖尿病
- ⑥慢性腎不全
2. 整形外科手術自体の 周術期の心血管・心臓関連死亡リスク
患者さんの持病、状態に関係なく、整形外科手術そのものにより
周術期に発症する心筋梗塞もしくは心臓関連死亡の確率は、膝の手術で1%未満(低リスク)、
整形外科大手術(股関節、脊椎)で1-5%(中等度リスク)あることが知られています。
大室整形外科では、これらのリスクをさらに低下させるために、より侵襲性の低い術式を選択したり
手術時間の短縮に努め、患者さんの負担を軽減するように努めています。
3. 術前患者さんの運動耐用能力 と 術後の心血管合併症リスク
膝の手術のような低リスクの場合、それ以上の心臓の精査は必要とせず手術に挑むことも可能です。
整形外科大手術(股関節、脊椎)のような中等度リスクに該当しても、
以下のような運動に耐えられる場合は、
心臓が十分に手術に耐えられるとされ、さらなる精査は不要と言われています。
・家の中で軽作業(皿洗い、掃除)ができる
・家の中で床磨きができる
・2階分の階段を登ることができる
・上り坂を歩いて登ることができる
整形外科の病気をお持ちの場合、心肺能力的には可能でも、関節痛や腰痛で
上記の運動ができないことも多いので、過去の情報も加味して総合的に判断しています。
4. その他
以下の場合、スタッフからの指示に従い、周術期の出血リスクを低下させるために、
全部、または一部のお薬の中止をお願いしています。
短期的に血栓症のリスクが上昇することがありますが、出血リスクと天秤にかけ、
出血リスクの方が高いと判断した場合に一時休薬を指示しています。
今後の連載にて詳しく解説予定です。
- ・過去に冠動脈のバイパス手術を受けて抗血小板薬の内服中
- ・心房細動などの不整脈に対して抗凝固薬内服中
- ・機械弁あり
参考: 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン(2014年改訂版)
手術について不安に思われることがありましたら いつでも内科にご相談ください。
※ お近くのスタッフにお声がけください。