背骨を押すと痛いのは何が原因?考えられる病気やしてはいけないこと
背骨を指でそっと押しただけのズキッとした痛みで不安を感じていませんか?痛みは、多くの場合、姿勢の悪さによる筋肉の疲れが原因と考えられています。中には椎間板ヘルニアや圧迫骨折、さらには命に関わる内臓の病気が隠れている危険なサインの可能性もゼロではありません。
この記事では、背骨を押すと痛い原因や、すぐ病院へ行くべき危険なサイン、背骨が痛むときにしてはいけない行動を詳しく解説します。自己判断する前に正しい知識を身につけ、ご自身の体からのSOSサインを見逃さないようにしましょう。
当院では、背骨を押したときの痛みや骨折、椎間板ヘルニアなどの症状に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
背骨を押すと痛い主な5つの原因
背骨を押すと痛い主な5つの原因を、以下に解説します。
- 姿勢の悪さやデスクワークによる筋肉の緊張
- 加齢や負担で起こる椎間板ヘルニアや圧迫骨折
- 肋間神経痛や帯状疱疹
- 骨粗しょう症や強直性脊椎炎など骨・関節の病気
- 膵炎や腎臓結石などの内臓の病気
姿勢の悪さやデスクワークによる筋肉の緊張
背骨を押すと痛む原因で、最も多いのは背骨の周りにある筋肉が硬くなる「筋肉の緊張」です。背中に負担をかける生活習慣チェックは以下のとおりです。
- 長い時間、同じ姿勢でパソコンや勉強をしている
- スマートフォンを見るとき、頭が前に出てうつむいている
- 気づくと背中が丸まっている(猫背)
- 椅子に浅く座り、背もたれに寄りかかっている
- 運動をする習慣が少ない
背中に負担をかける習慣が続くと、背骨を支える筋肉が緊張し、血管が圧迫されて血の流れが悪くなります。血流が悪くなると、痛みを引き起こす物質が筋肉の中にたまりやすくなり、押したときに痛みを感じる場合があります。肩甲骨の周りや背骨の両脇にある筋肉は、姿勢の影響をとても受けやすく、痛みが出やすい場所です。
こうした筋肉の緊張は首の痛みにもつながり、症状が長引く要因となることがあります。特に1ヶ月以上続く首の痛みは単なる疲労や姿勢だけでなく、病気が関係している可能性もあるため注意が必要です。
以下の記事では、首の痛みが1ヶ月治らないときに考えられる原因や、受診すべき診療科について解説しています。
>>【医師監修】首の痛みが1ヶ月治らない原因!何科を受診すべき?病気の可能性も解説
加齢や負担で起こる椎間板ヘルニアや圧迫骨折
背骨は「椎骨(ついこつ)」という骨が積み重なってできており、骨の間には「椎間板(ついかんばん)」という、衝撃を吸収するクッションがあります。骨やクッションに問題が起きると、痛みが生じます。年を重ねたり、重いものを持ったりして背骨に強い負担がかかると、中にある組織の一部が外に飛び出して、椎間板ヘルニアになります。
圧迫骨折は、骨がもろくなる「骨粗しょう症」の方に多い病気です。くしゃみや尻もち、少し重いものを持ち上げるなどの些細なことで、背骨が潰れてしまうことがあります。圧迫骨折が起きると強い痛みを感じ、寝返りを打ったり、寝起きが困難なことが多いです。だんだん背中が丸くなってしまうことも特徴です。
軽度の骨折であれば、コルセットをつけて安静にすることで、3〜4週間ほどで痛みの改善が期待できますが、個人差はあります。
肋間神経痛や帯状疱疹
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)は、肋骨に沿って走っている「肋間神経」という神経が、何らかの原因で刺激されて起こる痛みです。「電気が走るような」「針で刺すような」鋭い痛みが現れるのが特徴です。はっきりとした原因がわからないことも多いですが、悪い姿勢やストレス、疲労が関係していると考えられています。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、多くの人が子どもの頃にかかる「水ぼうそう」のウイルスが原因で起こる病気です。ウイルスは、治った後も体の中の神経にじっと隠れており、加齢やストレス、疲れなどで体の免疫力が落ちたときに、体の外に出現します。
帯状疱疹の症状は、体の左右どちらか片側の神経に沿って、皮膚にピリピリ、ズキズキとした痛みが現れます。数日後に、同じ場所に赤い発疹と水ぶくれが帯のように広がります。
骨粗しょう症や強直性脊椎炎など骨・関節の病気
骨粗しょう症は骨がもろくなり、折れやすくなる病気です。骨粗しょう症そのものには痛みがありませんが「圧迫骨折」を引き起こす原因になります。自分では気づかないうちに背骨がいくつも折れている状態を起こしていることもあります。
強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)は、背骨や骨盤の関節に炎症が起こり、徐々に骨が固まって動きにくくなる病気です。比較的若い男性に多く、以下の特徴があります。
- お尻や腰の痛みから始まることが多い
- 朝起きたときなど、じっとしていると痛みが強く、動かすと少し楽になる
- 進行すると背中や首に痛みが広がり、体を曲げ伸ばしできなくなる
強直性脊椎炎は「虹彩炎(こうさいえん)」と呼ばれる目の病気を合併する可能性があります。背中の痛みだけでなく、目の充血や痛みがある場合は注意が必要です。
このように骨や関節の病気が背景にあると、首や背中の動きにも影響が及びやすくなります。特に首を動かした際の痛みは日常生活に支障をきたすこともあり、原因を正しく見極めることが大切です。
以下の記事では、首を後ろに倒したときの痛みの原因や、症状に合わせた治し方・ストレッチについて解説しています。
>>首を後ろに倒すと痛い原因は?痛みがあるときの治し方やストレッチを解説
膵炎や腎臓結石などの内臓の病気
膵炎や腎臓結石など、一部の内臓の病気は、背中の痛みとして症状が現れることがあります。これは「関連痛(かんれんつう)」と呼ばれ、内臓と背中が同じ神経でつながっているために起こる現象です。関連痛で考えられる病気と特徴は、以下のとおりです。
考えられる内臓の病気 | 痛む場所の特徴 | その他の症状の例 |
急性膵炎(すいえん) | みぞおちから左側の激しい痛み | 吐き気、嘔吐、発熱 |
腎盂腎炎・腎臓結石 | わき腹から背中にかけての痛み(片側が多い) | 高熱、血尿、残尿感 |
胃・十二指腸潰瘍 | 食事の前や夜中のみぞおちから背中の痛み | 胸やけ、胃の不快感 |
胆石症・胆のう炎 | 右の肋骨の下や背中の右側の痛み | 発熱、吐き気、黄疸(皮膚が黄色くなる) |
解離性大動脈瘤 | 突然の引き裂かれるような激しい胸と背中の痛み | 呼吸困難、意識が遠のく(緊急性が高い) |
がんの転移 | 安静にしていても痛みが続く、徐々に強くなる | 体重減少、食欲不振、だるさ |
「じっとしていても痛い」「痛みがどんどん強くなる」などの症状が出る場合は、すぐに医療機関を受診してください。
すぐに病院へ行くべき危険なサイン
できるだけ早く医療機関を受診すべき症状について、以下を解説します。
- 強い痛みやしびれを感じる
- 発熱や体のだるさを伴う
- 尿や便の異常を感じる
強い痛みやしびれを感じる
「いつもと違う」「我慢できない」と感じる強い痛みは危険なサインです。痛みだけでなく、しびれや力の入りにくさを感じる場合も注意が必要です。しびれは、背骨の中にある神経が何らかの原因で圧迫されることで起こる可能性があります。以下の症状が見られるときは、すぐに整形外科を受診しましょう。
- 安静にしていても痛みが和らがない
- 時間が経つにつれて痛みがどんどん強くなる
- お尻や足にまで広がる痛みやしびれ
- 足に力が入りにくく、歩きにくい
- 転倒や事故の後に急に激しい痛みが出た
症状は、椎間板が飛び出す「胸椎椎間板ヘルニア」や、骨がもろくなる骨粗しょう症による「圧迫骨折」が原因の可能性があります。まれに、がんが骨に転移している可能性も考えられます。神経の症状は、放置すると回復が難しくなることもあるため、早めの受診が大切です。
発熱や体のだるさを伴う
背骨の痛みに加えて、原因のわからない熱が出たり、体全体が重だるく感じたりする場合も注意が必要です。発熱やだるさは、背骨に起きている炎症や感染が原因の可能性があります。全身の不調を感じていないか、以下の項目をチェックしましょう。
- 背骨の痛みに加えて、37.5度以上の熱がある
- 最近、ダイエットをしていないのに体重が減ってきた
- 夜中にパジャマを着替えるほどの寝汗をかく
- 体が鉛のように重く、何もやる気が起きない
- 食欲がない状態が続いている
発熱や体のだるさは、細菌が背骨に入り込んで化膿してしまう「化膿性脊椎炎」という病気の可能性があります。背骨の関節に炎症が起きる強直性脊椎炎も考えられます。背中の痛みだけでなく、体全体の調子が悪いと感じたら、整形外科や内科を受診し、原因を調べましょう。
尿や便の異常を感じる
背骨の痛みとともに、尿や便の出方に異常を感じる場合は、緊急性の高い危険なサインです。排尿や排便をコントロールする太い神経の束が、背骨の中で強く圧迫されている可能性があります。尿や便の異常は「馬尾(ばび)症候群」と呼ばれ、一刻も早い治療が必要です。
治療が遅れると、排泄障害の後遺症が残る危険性が高まります。尿や便が出せない、漏れてしまう、お尻まわりの感覚がおかしい場合は、すぐに救急病院を受診しましょう。ご自身だけでなく、ご家族に症状が見られた場合も医療機関に相談してください。
背骨が痛いときにしてはいけないこと
背骨が痛いときにしてはいけない行動として、以下の3つが挙げられます。
- 自己流でマッサージをする
- 痛みを我慢して無理に動かす
- 市販薬だけで放置する
自己流でマッサージをする
痛みの原因がわからないまま自己流でマッサージを行うことは、危険な行為です。痛みの原因が単なる筋肉の疲れではなく、骨折や椎間板ヘルニア、細菌による感染症や腫瘍である場合もあります。強い力を加えてしまうと、骨がさらに変形したり神経の圧迫が悪化したりして、症状が急激に悪化する危険があります。
「炎症」が起きているときにマッサージの刺激を加えると、血流が過剰に促進されて炎症が広がり、痛みが強くなることもあります。背骨の周囲には脳から続く神経や、枝分かれする細い神経、血管が複雑に走っています。痛みを和らげたい場合は、医療機関を受診してください。痛みの原因を正確に診断してもらうことで、回復へつながりやすくなります。
特に椎間板ヘルニアのように生活習慣や体質が影響する病気では、誤った対応を避けると同時に、予防の観点からリスクを理解しておくことも重要です。以下の記事では、椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴やリスクを高める要因、日常でできる予防法について解説しています。
>>椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴とは?リスクを高める要因と予防法を解説
痛みを我慢して無理に動かす
痛みを我慢して普段通りの生活や運動を続けるのはやめましょう。痛みは、体が発する危険なサインです。無理して普段通りの生活を続けると、体にさらなるダメージを与える可能性があります。
背中の痛みには「胸椎椎間板ヘルニア」のように、症状だけでは診断が難しい病気が隠れていることもあります。自己判断で無理に体を動かすと、飛び出した椎間板が脊髄を強く圧迫し、歩行障害などの重い後遺症につながる可能性もあります。痛みのある部分を無意識にかばうことで体のバランスが崩れ、背中以外の部位に負担がかかることも考えられます。
痛みがあるときは、安静を心がけましょう。仕事や家事も、できるだけ体に負担がかからないような工夫が大切です。
市販薬だけで放置する
ドラッグストアなどで手軽に購入できる市販薬は、症状を抑えるための「対症療法」であり、根本的な治療ではありません。市販薬で症状を抑え続けることで、重大な病気の発見が遅れてしまうリスクがあります。
市販の痛み止めであっても、長期間服用すれば胃腸が荒れたり、腎臓に負担がかかったりするなどの副作用が起こる可能性もあります。市販薬は、病院を受診するまでの「応急処置」として考えましょう。痛みが数日たっても改善しない場合や、症状が強くなる場合は、整形外科を受診して原因を調べてください。
背骨の痛みに対する治療法
背骨の痛みに対する治療法について、以下のとおり解説します。
- レントゲンやMRIで原因を特定
- 保存療法(薬やリハビリテーション)
- 神経ブロック注射
- 手術療法
レントゲンやMRIで原因を特定
原因を特定する方法として、レントゲン検査やMRI検査があります。背骨が痛いときは、痛みの原因を正しく知ることが大切です。レントゲン検査やMRI検査の特徴は、以下のとおりです。
検査の種類 | 見えるもの | 特徴 |
レントゲン検査 | 骨の形、並び、骨折の有無 | 背骨全体のバランスや骨の変形を調べる |
MRI検査 | 神経、椎間板、筋肉など柔らかい組織 | 磁気の力で体の断面を撮影し、レントゲンでは見えない神経の圧迫などを詳しく調べる |
保存療法(薬やリハビリテーション)
保存療法は、以下の方法があります。
- 薬物療法:痛みを和らげ、炎症を抑えるための治療
- リハビリテーション(理学療法):ストレッチで筋肉の柔軟性を高め、体幹トレーニングで背骨を安定させる
- 装具療法:コルセットなどの装具を使い、背骨を一時的に固定する
研究でも、姿勢の改善や背骨を支える筋肉の強化が、痛みの改善と再発予防に重要であるとされています。
神経ブロック注射
神経ブロック注射は、痛みの原因となっている神経のすぐ近くに、麻酔の薬を注射する治療法です。痛みの信号が脳に伝わるのをブロックするため、つらい痛みを和らげる効果が期待できます。近年では、超音波(エコー)を使って神経や筋肉の位置を確認しながら、より正確に注射を行う技術も進んでいます。
背中の筋肉の層に薬を注射する「脊柱起立筋平面ブロック」では、薬の広がり方が筋肉の厚さによって変わる、といった研究も行われています。
手術療法
手術は、さまざまな治療を試しても効果が見られない場合の最終的な選択肢の一つです。 以下の症状がある場合には、手術を検討します。
- 足に力が入らない、歩きにくいなどの麻痺の症状がある
- 保存療法では改善しない、耐えがたい痛みが続いている
- 排尿や排便が出にくいなどの症状(馬尾症候群)がある
背骨(胸椎)の手術は、近くに神経が通っているため、専門的な技術と知識が必要です。医師から手術の必要性や内容について十分な説明を受け、納得したうえで治療を進めることが大切です。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)は、脊椎センター・人工関節センターの2つを軸にしたクリニックです。腰や関節の痛み、リハビリなどでお悩みの方へ、専門医が丁寧に相談に応じます。JR姫路駅からは無料送迎バスを利用できますので、お気軽にご来院ください。
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まとめ
背中の痛みは、姿勢の癖による筋肉の疲れから、椎間板ヘルニアや内臓の病気といった、すぐに対処が必要なサインまでさまざまです。「なんとかしたい」という気持ちから自己流でマッサージをするのは、症状を悪化させる可能性があります。何よりも大切なのは、痛みの本当の原因を正確に知ることです。
強い痛みやしびれ、発熱など「いつもと違う」と感じたら、体が発する重要なサインの可能性があります。自己判断で放置せず、整形外科などの専門医に相談し、適切な診断を受けることが安心への第一歩です。一人で抱え込まず、気軽に当院へ相談してください。
参考文献
- Mehjabeen Saeed, Fatima Zehra, Sehrish Aslam.Improving Kyphotic Postures and Neck Pain in Young Adults: A Meta-Analysis of Exercise-Based Interventions.J Coll Physicians Surg Pak,2023,33,11,p.1299-1304
- Wei-Han Chou, Wen-Yun Niu, Po-Chin Liang, Shih-Han Lin, Jen-Ting Yang, Chih-Peng Lin, Ming-Shiang Wu, Chun-Yu Wu.Erector spinae plane block spread patterns and its analgesic effects after computed tomography-guided hepatic tumour ablation: a randomized double-blind trial.Ann Med,2025,57,1,p.2480255