椎間板ヘルニアで苦しむ若い女性へ|症状の特徴と効果が期待できる改善策
若い女性に増加傾向の椎間板ヘルニアは、デスクワークやスマートフォンの長時間使用など、生活習慣が原因で発症するケースが増えています。腰や足の痛み、しびれなどの症状は、日常生活に支障をきたす可能性があります。
本記事では、若い女性の椎間板ヘルニアの症状の特徴、原因、改善策を解説します。早期発見・早期治療のために、ご自身の状況と照らし合わせ、気になる症状がある場合は医療機関に相談しましょう。
当院では、椎間板ヘルニアをはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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若い女性の椎間板ヘルニア:症状の特徴3選
若い女性は、仕事、家事、育児など、多くの役割を担っていることが多く、症状により日常生活への影響が大きくなってしまうことが懸念されます。若い女性の椎間板ヘルニアの症状の特徴について、以下の3つを解説します。
- 腰の痛み
- 足の痛みやしびれ
- 排尿・排便障害
腰の痛み
腰の痛みは、椎間板ヘルニアの一般的な症状です。痛みの種類は、ズキズキとした痛み、重い痛み、焼けるような痛みなどで表現されます。部位も腰の中心や左右、お尻など、個人差があります。腰の痛みだけでなく、腰の違和感やこわばりを感じることもあります。
研究では、腰椎変性疾患(椎間板ヘルニアを含む)の手術を受けた患者さんにおいて、女性は男性よりも術前・術後の疼痛や障害、健康関連QOL(生活の質)が悪いという結果が報告されています。女性ホルモンの影響や身体構造、生活習慣、痛みの感じ方の個人差といったさまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられます。
痛みを我慢し続けると、日常生活に支障をきたすだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
足の痛みやしびれ
椎間板ヘルニアが坐骨神経を圧迫すると、足に痛みやしびれが生じることがあります。坐骨神経痛と呼ばれ、お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足先まで、神経の走行に沿って痛みやしびれが広がることが特徴です。痛みやしびれの程度は、軽いしびれから歩行困難になるほどの激しい痛みまでさまざまです。
片側の足に症状が現れる場合、両足に現れる場合もあります。足の痛みやしびれの他に、足の冷えやむずむず感、力が入りにくいなどの症状を訴える方もいます。神経の圧迫によって血流が悪くなったり、神経の伝達機能が低下したりすることが、症状の一因と考えられています。
排尿・排便障害
椎間板ヘルニアが重症化し、馬尾神経(脊髄の下端から伸びる神経の束)が圧迫されると、排尿・排便障害が起こることがあります。馬尾神経は、膀胱や直腸の機能をコントロールする神経です。神経が圧迫されると、尿・便が出しづらい、残尿感、便秘になるなどの症状が現れます。
排尿・排便障害は、緊急性の高い症状です。症状が現れた場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう。症状の悪化や後遺症を防ぐためにも、早期受診が推奨されます。気になる症状がある場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。
若い女性が椎間板ヘルニアになりやすい原因
若い女性が椎間板ヘルニアになりやすい原因について、以下の6つを解説します。
- デスクワーク
- スマートフォンの長時間使用
- ハイヒール
- 運動不足
- 冷え性
- 妊娠や出産
デスクワーク
長時間同じ姿勢をとり続けるデスクワークは、腰に負担がかかります。パソコン作業による前かがみの姿勢や猫背は、椎間板への圧力が増加し、ヘルニアのリスクが高まります。人間の背骨は、S字カーブを描くことで、体重や衝撃を分散吸収する構造になっています。
猫背になると、S字カーブが崩れ、特定の椎間板に負担が集中しやすくなります。加えて、座位姿勢を続けると、腹筋や背筋などの体幹の筋肉が弱くなり、腰椎を支える力が低下するため、椎間板への負担は増大します。
1時間に1回は立ち上がり、軽いストレッチや正しい姿勢を保つよう心がけましょう。椅子や机の高さを調整し、作業環境を整えることも大切です。
以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に分類し、それぞれに合った治療法について詳しく解説しています。
>>腰椎椎間板ヘルニアの症状レベル別の特徴!治療法も解説
スマートフォンの長時間使用
スマートフォンを長時間使用していると、うつむいた姿勢になりやすいです。うつむいた姿勢は、首や肩だけでなく、腰にも負担をかけ、椎間板ヘルニアのリスクを高める可能性があります。頭部は体重の約10%を占めると言われており、下を向く角度が大きくなるほど、首や肩、腰にかかる負担は増加します。
スマートフォンを操作する際は、指や手首を酷使するため、腱鞘炎などの症状を引き起こす可能性もあります。長時間同じ姿勢での使用は避け、こまめに休憩を取り、ストレッチを行うなど工夫しましょう。スマートフォンを使う際は、画面を目の高さまで持ち上げる、スマホ側の肘を支えるなど、姿勢に気を配ることが大切です。
ハイヒール
ハイヒールを履くと、身体の重心が前方に移動し、バランスを保つために腰が反る姿勢になりやすいです。腰が反る姿勢は、腰椎の湾曲を大きくし、椎間板への負担を増加させます。高いヒールを履くほど、腰椎への負担は大きくなります。
ハイヒールを履く機会が多い方は、低いヒールの靴を選ぶ、インソールを使用するなど、工夫しましょう。ハイヒールを履く際は、正しい姿勢を意識し、こまめに休憩を取ることも大切です。
運動不足
運動不足は、腹筋や背筋などの体幹の筋肉を弱める大きな原因です。体幹の筋肉は、コルセットのように腰椎を支え、安定させる役割を担っています。筋肉が弱まると、腰椎を支える力が低下し、椎間板への負担が増加し、ヘルニアのリスクが高まります。
適度な運動を習慣的に行い、体幹の筋肉を鍛えることは、椎間板ヘルニアの予防に役立つ可能性があります。ウォーキングや水泳、ヨガやピラティスなど、腰に負担の少ない運動から始めてみましょう。
冷え性
冷え性は、血行不良を引き起こし、筋肉や神経の働きを低下させます。腰周りの筋肉は硬くなり、柔軟性が失われます。硬くなった筋肉は、椎間板への負担を増加させ、ヘルニアのリスクを高めることにつながります。日頃から以下の生活習慣を心がけましょう。
- 身体を温める
- 適度な運動をする
- バランスの良い食事を摂る
冷えは、自律神経の乱れやホルモンバランスの崩れにもつながるため、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
妊娠や出産
妊娠中は、お腹が大きくなるにつれて、腰椎の湾曲が大きくなり、椎間板への負担が増加します。リラキシンというホルモンの影響で、骨盤周りの靭帯が緩み、関節が不安定になるため、腰痛が起こりやすくなります。出産時には、骨盤底筋群と呼ばれる筋肉が大きく伸びるため、腰椎の安定性が低下しやすくなります。
産後は、骨盤ベルトなどで腰回りをサポートする、無理な姿勢や動作を避ける、適度な運動をするなど身体をいたわるようにしましょう。激しいスポーツや遺伝的要因、喫煙習慣なども椎間板ヘルニアのリスクを高める可能性があります。生活習慣を見直し、ヘルニアの予防に努めましょう。
椎間板ヘルニアの改善策3選
椎間板ヘルニアの改善策として、以下の3つを解説します。
- 保存療法
- 手術療法
- 椎間板内酵素注入療法
保存療法
保存療法について、以下の4つを解説します。
- 薬物療法
- 理学療法
- 装具療法
- 牽引療法
薬物療法は、痛みや炎症を抑える薬を内服します。神経の興奮を抑える薬なども、症状に合わせて処方されます。理学療法は、理学療法士が患者さんの状態に合わせ、運動やストレッチ、マッサージなどを行います。筋肉を鍛え、柔軟性を高めることで、症状の改善を目指します。腰椎の安定性を高める体幹トレーニングも有効です。
装具療法は、コルセットなどの装具を装着することで、腰を安定させ、痛みを軽減します。牽引療法は、医療機器を使用した牽引により、症状の緩和を目指す治療法です。
保存療法は、初期治療として選択されることがほとんどです。日常生活を送りながら治療を行えることは、メリットであり、入院の必要もなく、仕事や家事、育児との両立も可能です。多くの場合、数週間〜数か月で症状の改善が期待されます。
薬物療法には個人差があるため、特徴やメリット・デメリットを理解し、医師と相談のうえ適切な治療法を選択しましょう。
手術療法
手術療法は、保存療法に比べ身体への負担が大きいため、慎重に判断する必要があります。術式にはメリット・デメリットがあり、患者さんの状態に合わせて最適な方法が選択されます。手術療法が検討されるのは、以下の3つの場合です。
- 保存療法で効果が見られない場合
- 排尿・排便障害などの重篤な神経症状がある場合
- 症状が重く日常生活に支障が出ている場合
主な手術療法は、以下の2つです。
- 椎間板ヘルニア摘出術
- 椎間板固定術
椎間板ヘルニア摘出術は、飛び出した椎間板の一部を取り除く手術です。内視鏡や顕微鏡を用いた方法など、さまざまな術式があります。椎間板固定術は、不安定になった椎間板をボルトやプレートなどを用いて固定する手術です。
入院期間やリハビリテーション期間なども考慮し、医師と相談のうえ、決定することが大切です。手術療法を選択する際は、術後の経過や合併症のリスクについても理解しておきましょう。
椎間板内酵素注入療法
椎間板内酵素注入療法は、椎間板の髄核内に直接薬剤を注射し、ヘルニアによる神経の圧迫を軽減させ、痛みやしびれを緩和します。保存療法と手術療法の中間に位置する治療法です。ヘルニアの脱出タイプや手術が望ましい場合などは、適応外となることもあります。
当院は、椎間板内酵素注入療法の認定施設です。「もし、患者さまが自分の家族だったら私は何をすべきか。」という理念のもと、質の高い医療サービスを提供することに尽力しています。椎間板ヘルニアでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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椎間板ヘルニアにおける日常生活の注意点
椎間板ヘルニアの症状を悪化させず、再発を防ぐための日常生活の注意点について、以下の2つを解説します。
- 日常生活での姿勢や動作の改善
- 再発予防のためのストレッチ
日常生活での姿勢や動作の改善
日常生活での姿勢や動作は、椎間板ヘルニアの症状に影響します。注意が必要な姿勢や動作のポイントは、以下の表のとおりです。
姿勢 | 行動 | 目的・意識すること | 注意点・工夫 |
座り方 | 長時間座る場合 | 背筋を伸ばし、骨盤を立てて正しい姿勢を保つ | ・浅めに座る ・足を組まない ・足裏全体を床につける ・背もたれに寄りかかりすぎない |
立ち方 | 立位姿勢を保つとき | 背筋を伸ばし、体重を両足に均等にかける | ・猫背にならない ・お腹に軽く力を入れる ・長時間の場合は足を肩幅程度に開く ・膝を軽く曲げる動作、つま先立ちを取り入れる |
物の持ち上げ方 | 重い物を持ち上げるとき | 腰や背中を痛めないようにする | ・膝を曲げて腰を落とし、背中はまっすぐ ・急な動作は避け、ゆっくり持ち上げる ・キャリーカートなどを使って負担を減らす |
寝姿勢 | 仰向け/横向き | 腰の負担を減らし、姿勢を安定させる | ・仰向け:膝の下にクッションを置いて脚をリラックスさせる ・横向き:抱き枕を使って身体を安定させる |
ポイントを意識することで、日常生活での腰への負担を軽減し、椎間板ヘルニアの症状悪化や再発を予防することにつながります。
再発予防のためのストレッチ
再発予防のためにストレッチを行う部位と手順は、以下の表のとおりです。
部位 | 手順 |
ハムストリング | 1.足を伸ばして座る
2.片方の足を軽く曲げ、もう片方の足を伸ばしたまま、伸ばした足のつま先に向けて上体を倒す 3.太ももの裏側の伸びを感じながら、20~30秒程度保持する 4.反対側の足も同様に行う |
大殿筋 | 1.仰向けに寝て、片方の膝を曲げ、両手で膝を抱え込む
2.胸の方へ引き寄せ、お尻の筋肉の伸びを感じながら、20~30秒ほど保持する 3.反対側の足も同様に行う |
腸腰筋 | 1.片方の足を大きく前に出し、後ろ足の膝を床につける
2.前の足の太ももが床と平行になるように、骨盤を前に倒すよう意識しながら、20~30秒ほど保持する 3.反対側の足も同様に行う |
ストレッチは、無理のない範囲で行うことが大切です。痛みを感じる場合は、すぐに中止しましょう。ストレッチを行う際は、呼吸を止めないように注意し、ゆっくりと深呼吸しながら行うようにしましょう。ストレッチを習慣化することで、腰周りの筋肉の柔軟性を維持し、椎間板ヘルニアの再発予防に役立つ可能性があります。
まとめ
椎間板ヘルニアは若い女性でも発症する可能性があり、デスクワークやスマートフォンの長時間の使用などが原因の場合もあります。腰や足の痛み、しびれなどの症状が現れたら、我慢せず医療機関を受診することが大切です。多くの場合、保存療法で改善が期待できますが、重症の場合は手術療法も選択肢となります。
椎間板ヘルニアは再発しやすい疾患です。再発予防には、日常生活での姿勢や動作の改善に加え、ストレッチを行うことも有効です。日常生活での注意点を守り、適切な治療とセルフケアを続け、快適な生活を送れるようにしましょう。
治療法の選び方や生活習慣の整え方をしっかり把握しておくことが、回復への近道となります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの具体的な治療法や、回復を助ける日常生活の工夫について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの治療法!回復に役立つ生活習慣も紹介
参考文献
MacLean MA, Touchette CJ, Han JH, Christie SD, Pickett GE. Gender differences in the surgical management of lumbar degenerative disease: a scoping review. J Neurosurg Spine, 2020, 32巻, 6号, p.799-816