椎間板ヘルニアの場所別の症状を解説!首・腰・胸椎の特徴と治療法の違い
首や腰、背中に痛みやしびれを感じたことはありませんか?痛みやしびれの症状は、椎間板ヘルニアのサインかもしれません。椎間板ヘルニアは、背骨のクッションである椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫することで発生します。椎間板ヘルニアの発生場所によって、痛みやしびれの症状や範囲が変わります。
この記事では、椎間板ヘルニアの症状と適切な治療法を、頸椎(首)や胸椎(背中)、腰椎(腰)の3つの部位に分けて解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら読むことで、椎間板ヘルニアの理解が深まり、適切な対処法が見えてきます。
当院では、椎間板ヘルニアをはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
>>診察のご案内について
椎間板ヘルニアの場所別の症状
椎間板ヘルニアの発生場所別の症状は以下のとおりです。
- 頸椎(首)ヘルニア:痛みやしびれ・手の動かしづらさ
- 胸椎(胸)ヘルニア:背中の痛み・帯状の痛み・肋間神経痛
- 腰椎(腰)ヘルニア:腰痛・坐骨神経痛・足のしびれ
頸椎(首)ヘルニア:痛みやしびれ・手の動かしづらさ
頸椎ヘルニアは、7つある頸椎の椎間板で発生するヘルニアです。7つある頸椎の椎間板は、脳から続く脊髄という神経の束が通る重要な場所です。神経の束が通る場所は、神経への影響が出やすく、首や肩、腕、手にかけて痛みやしびれ、動かしづらさなどの症状が現れます。頸椎ヘルニアのレベル別の症状は、以下のとおりです。
頸椎ヘルニアのレベル | 症状 |
C5/C6レベル(第5頸椎と第6頸椎の間) | ・上腕外側から親指、人差し指のしびれ、痛み ・筋力低下(肘を曲げる、手首を反らす) ・首や肩甲骨周りの痛み ・手の細かい動作障害 ・歩行障害 |
C6/C7レベル(第6頸椎と第7頸椎の間) | ・上腕から人差し指、中指、薬指のしびれ、痛み ・筋力低下(肘を伸ばす、指を伸ばす、手首を曲げる) ・首や肩甲骨周りの痛み ・手の細かい動作障害 ・歩行障害 |
手の細かい動作や歩行が困難になる症状は、脊髄の圧迫により起こる脊髄症のサインである可能性もあり、注意が必要です。脊髄症は放置すると深刻な麻痺につながる場合もあるため、早期の診断と適切な治療が重要になります。
胸椎(胸)ヘルニア:背中の痛み・帯状の痛み・肋間神経痛
胸椎ヘルニアは、12個ある胸椎の椎間板で発生するヘルニアです。頸椎や腰椎ヘルニアと比べて、胸椎ヘルニアは発生頻度が低い傾向にあります。症状は、背中の痛みや、肋骨に沿って帯状に広がる痛み、肋間神経痛などです。胸椎ヘルニアは、他の部位のヘルニアと比べて診断が難しい場合があります。
胸椎の周辺には心臓や肺などの重要な臓器があるため、症状が臓器の疾患と誤診される可能性があるからです。胸椎ヘルニアの場合、神経が圧迫されると、前胸部から腹部にかけて痛みやしびれが生じることがあります。胸椎から出ている神経が肋間神経として胸や腹部の感覚を支配しているためです。
歩行時のふらつきや、膀胱直腸障害(排尿・排便の障害)が現れることもあります。脊髄が圧迫されているサインの可能性もあるため、注意が必要です。
症状が急激に悪化し、歩けないほどの激痛に見舞われた場合は、より早急な対処が必要です。以下の記事では、椎間板ヘルニアで歩行困難になるほどの激痛が出た際の応急処置や、緊急受診の目安について詳しく解説しています。
>>【椎間板ヘルニア】激痛で歩けないときの緊急対処法と受診目安
腰椎(腰)ヘルニア:腰痛・坐骨神経痛・足のしびれ
腰椎ヘルニアは、5つある腰椎の椎間板で発生するヘルニアです。主な症状は以下のとおりです。
- 腰痛
- 坐骨神経痛
- 足のしびれ
坐骨神経痛とは、腰から出ている坐骨神経が圧迫されることで症状が出ます。症状は、お尻から太ももの裏やふくらはぎ、足先まで、電気が走るような痛みやしびれが生じます。腰椎ヘルニアは、坐骨神経痛の主な原因の一つです。
腰椎ヘルニアの症状は、軽い腰痛、安静にしていても痛みやしびれを感じる、太ももや足先までしびれが広がるなどさまざまです。症状の程度は、ヘルニアの大きさや神経の圧迫の程度によって異なります。加齢による椎間板の変性も、腰椎ヘルニアの原因の一つです。重症になると、以下の症状も見られます。
- 常に強い痛み
- 睡眠時に痛み
- 足先の麻痺
- 歩行困難
- 排尿・排便障害
重度の症状が現れた場合は、馬尾症候群という、神経の束が圧迫されることによって起こる病気のサインの可能性もあります。馬尾症候群は、放置すると膀胱直腸障害や下肢麻痺などの後遺症が残る可能性があるため、すぐに医療機関を受診することが大切です。
近年では、20代などの若い世代でも腰椎ヘルニアを発症するケースが増えています。デスクワークやスマートフォンの長時間使用、過度なスポーツなどがリスク要因になるため、早めの対策が重要です。以下の記事では、若い人の椎間板ヘルニアの原因や20代でもなる理由、効果が期待できる予防法を詳しく解説しています。
>>若い人の椎間板ヘルニアの原因とは?20代でもなる理由と予防法
頸椎(首)ヘルニアの治療法
神経の通り道である頸椎は、脳からの指令を全身に伝える重要な役割を担っているため、適切な治療の選択が大切です。頸椎ヘルニアの治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法:頸椎カラー
- 薬物療法:NSAIDs・筋弛緩薬・神経障害性疼痛薬
- 手術療法:前方除圧固定
保存療法:頸椎カラー
頸椎ヘルニアの保存療法として最も一般的なのは、頸椎カラーの装着です。頸椎カラーは、首の動きを制限することで、飛び出した椎間板による神経の圧迫を軽減し、痛みやしびれの緩和を図ります。頸椎カラーは、主に以下の3つがあります。
- ソフトカラー
- ハードカラー
- フィラデルフィアカラー
ソフトカラーは比較的軽度の症状に適しており、首の動きを軽く制限します。ハードカラーは中等度以上の痛みやしびれがある場合に用いられ、首の動きをより強く制限します。フィラデルフィアカラーは頭部まで固定するため、重度の痛みやしびれや骨折がある場合に適しています。
医師は、患者さんの症状や生活スタイルに合わせて適切な種類のカラーを選択します。頸椎カラーの装着には、以下の注意点があります。
- 長時間の連続使用は避け、定期的に首を動かす
- 首を冷やさないようにする
- 入浴時はカラーを外すか、医師の指示に従う
保存療法には、頸椎カラー以外にも以下の治療法があります。
- 薬物療法
- リハビリテーション
- 温熱療法
- 牽引療法
治療法を組み合わせることで、相乗効果が期待でき、より効果的に症状を改善できる可能性があります。
薬物療法:NSAIDs・筋弛緩薬・神経障害性疼痛薬
頸椎ヘルニアの薬物療法は、主に痛みやしびれの症状を緩和するために用いられます。代表的な薬は、以下3つです。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):炎症を抑え、痛みを緩和
- 筋弛緩薬:筋肉の緊張を和らげ、痛みやしびれを軽減
- 神経障害性疼痛薬:神経の損傷による痛みやしびれを緩和
NSAIDsは、市販の痛み止めにも含まれている成分で、比較的入手しやすい薬剤です。薬は、症状や痛みの程度に合わせて、医師が適切な種類や量を処方します。薬の効果や副作用には個人差があるため、医師の指示に従って服用することが重要です。副作用が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。
手術療法:前方除圧固定
手術療法が検討されるケースは以下のとおりです。
- 保存療法で十分な効果が得られない
- 重度の症状がある
- 日常生活に著しい支障が出ている
- 神経症状の悪化が認められる
頸椎ヘルニアの手術療法には、前方除圧固定術など、いくつかの種類があります。前方除圧固定術は、首の前側から、ヘルニアによって圧迫された神経を解放し、人工骨やプレートで頸椎を固定する手術です。前方除圧固定術により、神経の圧迫を取り除き、痛みやしびれの改善が期待できます。
手術には、合併症や後遺症のリスクも伴います。手術を受けるかどうかは、医師とよく相談し、メリットとデメリットを理解したうえで判断することが重要です。医師は、患者さんの病状や全身状態、年齢、生活背景などを考慮して、手術の適応を判断します。
手術後には、リハビリテーションを行い、日常生活への復帰を目指します。近年では、内視鏡を用いた低侵襲手術も普及してきており、身体への負担が少ない手術も選択できます。
胸椎(胸)ヘルニアの治療法
胸椎ヘルニアは比較的まれな疾患ですが、放置すると日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。胸椎ヘルニアの治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法:体幹強化
- 薬物療法:NSAIDs・筋弛緩薬・神経障害性疼痛薬
- 手術療法:胸椎椎弓切除・椎間板摘出
保存療法:体幹強化
胸椎ヘルニアの保存療法では、体幹の筋肉を鍛えることが重要です。体幹を鍛えることで、背骨を支える筋肉が強化され、ヘルニアによる神経の圧迫を軽減する効果が期待できます。体幹筋は背骨を支える重要な役割を持ち、筋肉群の強化によって、椎間板への負担を軽減できる可能性があります。体幹強化の方法は、以下の3つです。
- 腹筋運動:お腹周りの筋肉を鍛え、姿勢の安定を目指す
- 背筋運動:背中の筋肉を鍛え、背骨を支える力を強化する
- ヨガやピラティス:体幹を意識したエクササイズで、インナーマッスル(深層筋)を鍛え、柔軟性を高める
インナーマッスルとは、身体の深部に位置する筋肉群で、姿勢の維持や動作の安定に重要な役割を果たします。体幹を強化する運動は、無理のない範囲で行うことが大切です。痛みが強い場合は、運動を控えて安静にする、もしくは医師に相談するようにしましょう。
専門家の指導を受けることで、より効果的な体幹強化を行える可能性があります。胸椎ヘルニアは、日常生活での姿勢や動作に気をつけることで予防ができます。日頃から、以下を意識することが大切です。
- 長時間同じ姿勢での作業を避け、30〜45分ごとに軽いストレッチや休憩を入れる
- 重いものを持ち上げるときは腰に負担がかからないように膝を曲げて持ち上げる
適切な姿勢を維持することで、椎間板への負担を軽減し、ヘルニアの発生リスクを低減できます。
薬物療法:NSAIDs・筋弛緩薬・神経障害性疼痛薬
胸椎ヘルニアの薬物療法では、主に以下の3つの薬が用いられます。
- NSAIDs
- 筋弛緩薬
- 神経障害性疼痛薬
NSAIDsは、市販の鎮痛剤にも含まれていますが、医師の処方によってより効果の高い薬を使用できます。筋肉の過剰な緊張は、神経を圧迫し痛みを増強させる可能性があり、筋弛緩薬により、痛みの悪循環を断ち切ることが期待できます。
神経障害性疼痛は、神経自体が損傷を受けることで起こる痛みで、他の痛みとは異なるメカニズムで生じます。メカニズムが異なるため、神経障害性疼痛専用の薬剤が必要な場合もあります。薬は、症状や体質に合わせて医師が適切なものを処方します。
薬の効果や副作用には個人差があるため、医師の指示に従って服用し、自己判断で服用を中止しないことが重要です。副作用が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。
手術療法:胸椎椎弓切除・椎間板摘出
保存療法や薬物療法で効果が得られない場合や、神経の圧迫が強い場合には、手術療法が検討されます。脊髄圧迫による歩行障害や膀胱直腸障害(排尿・排便の障害)が見られる場合は、早期の手術が必要なこともあります。胸椎ヘルニアの主な手術療法は、以下の2つです。
- 胸椎椎弓切除:背骨の一部である椎弓を切除し、神経の圧迫を取り除く
- 椎間板摘出:ヘルニアを起こしている椎間板を切除する
手術療法は、症状を根本的に改善する効果が期待できますが、身体への負担が大きいため、慎重に検討する必要があります。手術のリスクや合併症についても、医師から十分な説明を受けるようにしましょう。胸椎ヘルニアの手術は、他の部位のヘルニア手術と比べて難易度が高く、専門的な技術と経験が必要です。
手術を受ける際は、脊椎外科の専門医がいる病院を選ぶことが重要です。術後は、リハビリテーションを行い、日常生活への復帰を目指します。
腰椎(腰)ヘルニアの治療法
腰椎ヘルニアの治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法:牽引・神経根ブロック
- 薬物療法:硬膜外ステロイド
- 手術療法:LOVE法・PELD・MED
保存療法:牽引・神経根ブロック
腰椎ヘルニアの主な保存療法は、以下のとおりです。
- 安静
- 薬物療法
- コルセットの着用
- 理学療法(リハビリテーション)
- 牽引
- 神経根ブロック注射
牽引は、機械を使って腰を引っ張り、椎間板にかかる圧力を軽減し、神経への負担を和らげます。牽引により腰椎が伸び、椎間板への圧力が減ることで、飛び出した椎間板が元の位置に戻りやすくなり、神経への圧迫が和らぎます。牽引は、腰の筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する効果も期待できます。
牽引は、炎症や痛みを鎮める可能性もあり、痛みが強い場合に有用とされています。神経根ブロックは、ヘルニアによって圧迫されている神経の近くに直接薬を注射する方法です。神経根ブロックを行うと、痛みが軽減され、日常生活動作が楽になる場合があります。薬剤としては、局所麻酔薬やステロイド薬が用いられます。
局所麻酔薬やステロイド薬は、炎症を抑え、神経の興奮を抑えることで、痛みやしびれの症状を緩和します。保存療法は、多くの腰椎ヘルニアの患者さんに効果が期待できる治療法です。保存療法で効果が見られない場合や、症状が重い場合は、手術療法を検討します。
薬物療法:硬膜外ステロイド
腰椎ヘルニアの薬物療法は、以下の4つです。
- NSAIDs
- 筋弛緩薬
- 神経障害性疼痛薬
- 硬膜外ステロイド注射
硬膜外ステロイド注射は、硬膜外腔という神経の周りのスペースにステロイドという抗炎症作用の強い薬を注射する方法です。神経の炎症を抑え、痛みやしびれを軽減する効果が期待できます。硬膜外ステロイド注射は、神経根ブロックと同様に、痛みが強い場合に有効な治療法です。
薬は、症状や痛みの程度に合わせて、医師が適切なものを処方します。薬の効果や副作用には個人差があるため、医師の指示に従って服用することが大切です。
手術療法:LOVE法・MED・PELD
腰椎ヘルニアの手術療法は、以下の3つがあります。
- LOVE法(顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術):背中を小さく切開し、顕微鏡を使ってヘルニアを取り除く手術
- MED(内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術):皮膚に小さな穴を開け、穴から内視鏡を挿入してヘルニアを取り除く手術。PELDのように灌流装置は使わない。
- PELD(経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術):皮膚に小さな穴を開け、穴から内視鏡を挿入してヘルニアを取り除く手術。関節鏡のように水を灌流させて行う。
LOVE法は、繊細な操作が可能で、神経を傷つけるリスクが少ないメリットがあります。LOVE法は、入院期間も短く、早期の社会復帰が期待できます。MEDは、傷が小さく、身体への負担が少ないメリットがあります。PELDは、MEDよりもさらに傷が小さく、身体への負担が少ないメリットがあります。内視鏡的脊椎手術は、入院期間の短縮につながり、医療費や社会的費用などを含めた費用対効果も優れていると報告されています。
どの手術法が適しているかは、ヘルニアの状態や患者さんの状態によって異なります。医師とよく相談して、最適な手術法を選択することが大切です。
まとめ
椎間板ヘルニアは、主に以下の3つの場所で発生します。
- 頸椎(首)
- 胸椎(背中)
- 腰椎(腰)
椎間板ヘルニアの発生場所により、症状が大きく異なります。それぞれの症状を理解し、適切な治療を選ぶことが大切です。治療法には、主に以下の3つがあります。
- 保存療法
- 薬物療法
- 手術療法
どの部位のヘルニアにも共通して言えることは、早期発見・早期治療が大切だということです。少しでも異変を感じたら、放置せずに専門医に相談しましょう。症状に合った適切な治療を受けることで、痛みや不快感を軽減し、快適な日常生活を送れるようサポートしてくれます。
手術に至らないケースや、手術後の回復をスムーズにするためには、日常生活の過ごし方も重要です。以下の記事では、椎間板ヘルニアの治療法全般と、回復をサポートする生活習慣について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの治療法!回復に役立つ生活習慣も紹介
参考文献
Jeff D Golan, Lior M Elkaim, Qais Alrashidi, Miltiadis Georgiopoulos, Oliver Lasry.Economic comparisons of endoscopic spine surgery: a systematic review.Eur Spine J,2023,32,8,p.2627-2636