頸椎症の症状・原因とは?効果が期待できる治療法と予防策を解説
首や肩のこり、腕や手のしびれを「疲れのせい」と思って放置していませんか?その不調、実は頸椎症が原因かもしれません。頸椎症は、加齢や長時間のスマホ・PC作業などによって首の骨や神経に負担がかかり、痛みやしびれ、動かしづらさを引き起こす病気です。
この記事では、頸椎症の主な症状と原因、治療法、再発を防ぐ予防策までをわかりやすく解説します。正しい知識を身につけることで、首の痛みや手のしびれを軽減し、再び快適に動ける毎日を取り戻すための第一歩を踏み出せるでしょう。
当院では、頸椎症をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
>>診察のご案内について
記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
頸椎症の症状
頸椎症では、首の骨の変形によって神経が圧迫されることで、腕や手・足などにさまざまな症状が現れます。どの神経が影響を受けるかによって、症状の範囲や強さは異なります。頸椎症の代表的な症状は以下の3つです。
- 腕や手のしびれ
- 巧緻運動障害
- 歩行障害
腕や手のしびれ
腕や手のしびれは、頸椎症の代表的な症状です。首の神経が圧迫されることで起こり、圧迫される場所によって症状の現れ方が異なります。しびれを放置すると、痛みや感覚の低下が広がることもあるため、早めの受診が重要です。
代表的なタイプと特徴は以下のとおりです。
| タイプ | 主な症状と特徴 |
| 頸椎症性神経根症 | ・片側の首や肩、腕、指先にかけて電気が走るようなしびれや痛みが出る ・首を反らしたり、横に傾けたりすると悪化しやすい ・仰向けで寝ると強まることもある |
| 頸椎症性脊髄症 | ・片手の指先の感覚鈍麻から始まり、進行すると両手足に広がる ・手袋や靴下を一枚多く重ねたような感覚の鈍さを伴うこともある |
以下のような症状がある方は注意が必要です。
- 指先だけがしびれる
- 腕の特定の範囲に痛みやしびれがある
- 首を動かすと腕に電気が走るような痛みが出る
- 両手足の感覚が鈍くなってきた
これらが当てはまる場合は、神経の圧迫が進行している可能性があるため、早めに専門医へ相談しましょう。
以下の記事では、それぞれの症状の詳しい特徴や原因、治療法について詳しく解説しています。気になる方はあわせてご確認ください。
>>頸椎症性神経根症とは?症状の特徴や原因、治療法を解説
>>頚椎症性脊髄症とは?症状の進行は早い?原因や手術・薬物による治療法を解説
巧緻運動障害
巧緻運動(こうちうんどう)障害とは、手先の細かい動きがしにくくなる症状のことです。主に脊髄が圧迫される「頸椎症性脊髄症」で見られる特徴的な症状で、脳からの「手を動かす」という信号が指先まで正確に伝わらなくなることで起こります。思い通りに手を動かせず、日常動作にも支障が出るようになります。
日常生活で見られる具体的なサインは次のとおりです。
- お箸で食べ物をうまくつかめず、落としやすくなる
- ペットボトルのキャップを開けにくくなる
- ボタンのかけ外しに時間がかかる
- 字が乱れ、以前より書きにくくなる
- 財布から小銭を取り出すのがスムーズにできない
これらは加齢による不器用さではなく、神経の異常による可能性があります。最近の研究では、頸椎症性脊髄症では脳の一部でも活動の変化が起きており、その変化が症状の重さと関係していることがわかってきています。手先の変化を感じたら、放置せず早めに医師へ相談することが大切です。
歩行障害
歩行障害は、頸椎症性脊髄症が進行した際に現れる重要なサインです。脊髄の圧迫によって、脳から足への神経の伝達がうまくいかなくなることで、足の動きがぎこちなくなり、バランスを崩しやすくなります。
初期は「なんとなく歩きにくい」「足がもつれる」などの軽い違和感から始まることが多く、見逃されがちです。次のような症状が見られる場合は注意が必要です。
- 平らな道でもつまずきやすくなる
- 階段の上り下りが怖く、手すりがないと不安になる
- 歩くときに足が突っ張る、または小走りがしづらい
- 方向転換でふらつく
進行すると歩行が不安定になり、杖や支えが必要になるケースもあります。重度になると、頻尿や便秘などの膀胱・直腸障害が起こることもあります。歩き方の変化は自分では気づきにくいため、周囲から「歩き方がおかしい」と言われたら要注意です。
頸椎症の主な原因
頸椎症は、首にかかる小さな負担が長年積み重なることで起こる病気です。発症の背景には、加齢や姿勢、生活習慣などの日常的な要因が深く関係しています。それぞれの原因を詳しく解説します。
加齢
頸椎症の最大の原因は、加齢による首の骨や周囲の組織の変化です。年齢とともに、首の骨(頸椎)は少しずつすり減り、神経を圧迫しやすい状態になります。誰にでも起こる自然な変化ですが、進行の程度や症状の強さには個人差があります。加齢によって起こる主な変化を以下の表にまとめています。
| 変化の種類 | 内容 | 影響・症状 |
| 椎間板(ついかんばん)の変性 | 骨と骨の間のクッションである椎間板が水分を失い、弾力をなくして薄くなる | 骨同士がこすれやすくなり、神経を刺激して痛みやしびれが出やすくなる |
| 骨棘(こつきょく)の形成 | 不安定になった骨を支えようとして、骨の縁がトゲ状に変形する | 神経根や脊髄を圧迫し、しびれ・痛みを引き起こす |
| 靭帯(じんたい)の変化 | 骨をつなぐ靭帯が厚く硬くなる | 神経の通り道(脊柱管)が狭まり、神経圧迫が生じやすくなる |
これらの変化は自然な老化現象の一部ですが、首への負担を減らす姿勢や運動習慣を身につけることで、進行を遅らせることが可能です。「年のせい」と諦めず、早めのケアを意識しましょう。
長時間の不良姿勢
長時間の不良姿勢は、頸椎に大きな負担をかける頸椎症の主な原因です。スマートフォンやパソコンの使用時間が増えたことで、首を前に傾けた姿勢が習慣化している人が多くなっています。
頭の重みを支える首は、本来まっすぐな姿勢でバランスを保っています。しかし、うつむく姿勢を続けると、その重さが前方に集中し、首の骨や筋肉、椎間板に過度な負担がかかります。この状態が長く続くと、椎間板のすり減りや首まわりの筋肉の緊張、血流の悪化が起こり、痛みやしびれなどの頸椎症状を引き起こします。
特に、スマホを見下ろす姿勢や猫背、浅く腰掛ける姿勢は要注意です。日常の小さな姿勢の癖を改善することが、首の老化を防ぎ、頸椎症の予防につながります。
生活習慣
生活習慣の乱れも、頸椎症を悪化させる大きな要因です。日常の何気ない行動が、首に負担をかけ続けていることがあります。特に仕事や運動、睡眠環境、生活リズムの中には、頸椎に悪影響を与える要素が多く潜んでいます。主な生活習慣とその注意点は以下のとおりです。
| 要因 | 内容と注意点 |
| 仕事・スポーツ | ・重い荷物を運ぶ、上を向く作業、首に衝撃のあるスポーツ(柔道・ラグビーなど)は要注意 ・首を反らす動作の多い活動も避ける |
| 睡眠環境 | ・枕の高さが合わないと頸椎に負担がかかる ・うつ伏せ寝は顔をひねるため首への圧迫が強く、仰向けまたは横向きが理想 |
| その他の要因 | ・運動不足で筋力が低下すると首を支えにくくなる ・喫煙は血流を悪化させ、椎間板の老化を早める ・ストレスも筋肉の緊張を招く |
これらを改善することで、首への負担を軽減し、頸椎の老化や再発を防ぐことができます。生活習慣を見直すことは、治療と同じくらい大切な予防になります。
頸椎症の治療法
頸椎症の治療は、症状の程度や原因に合わせて段階的に行うことが大切です。まずは体への負担が少ない保存療法から始め、必要に応じて手術を検討します。代表的な治療法は以下の3つです。
- 薬物療法
- リハビリテーション
- 手術療法
薬物療法
薬物療法は、頸椎症による痛みやしびれを和らげる基本的な治療法です。首や肩の炎症、神経の圧迫による痛みを抑え、日常生活を少しでも快適に過ごせるようにすることが目的です。主に使用される薬の種類と働きを以下の表にまとめています。
| 薬の種類 | 主な作用・特徴 |
| 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs) | ・炎症を抑えて痛みを軽減する ・飲み薬や湿布、塗り薬などがあり、首や肩の強い痛みに効果が期待できる |
| 筋緊張弛緩薬 | ・首や肩の筋肉のこわばりをほぐし、血流を改善 ・筋肉性の痛みに適応する |
| 神経障害性疼痛治療薬 | 神経の圧迫で起こるジンジン・ピリピリした痛みやしびれに作用 |
| ビタミンB12製剤 | 傷ついた神経の修復を助け、しびれの改善をサポート |
薬の効果には個人差があり、副作用として胃腸障害や眠気が出ることもあります。異変を感じた場合は自己判断で中止せず、医師に相談しましょう。
リハビリテーション
リハビリテーションは、薬物療法と並んで頸椎症の改善に欠かせない治療法です。薬が症状を抑える治療だとすれば、リハビリテーションは体の機能そのものを整える根本的な治療です。痛みを和らげるだけでなく、再発を防ぎ、首の安定性を取り戻すことを目的としています。主なリハビリテーションとして、以下が挙げられます。
| 治療法の種類 | 内容・目的 |
| 物理療法 | ・ホットパックや電気治療で患部を温め、血流を促進する ・筋肉の緊張を和らげて痛みを軽減する |
| 運動療法 | ・首や肩周囲のストレッチや、正しい姿勢を支える筋力トレーニングを行い、頸椎への負担を減らして、首を安定させることが目的 ・自己流ではなく、理学療法士の指導のもとで安全に実施することが重要 |
| 装具療法 | ・「頸椎カラー」などの装具を一時的に使用し、首の動きを制限する ・安静を保ち、痛みを和らげる |
リハビリテーションは即効性のある治療ではありませんが、焦らず継続することで確実に回復を支える治療法です。
手術療法
手術療法は、保存療法(薬物療法・リハビリテーション)で効果が得られない場合に検討される治療法です。多くの頸椎症は保存療法で改善しますが、神経の圧迫が強い場合や麻痺が進行している場合には、手術が必要となることがあります。
薬やリハビリでは狭くなった神経の通り道を広げることはできないため、手術によって直接的に圧迫を取り除くことが目的です。手術を検討する主なケースは次のとおりです。
- 痛みやしびれが長期間改善しない
- 手足の麻痺や筋力低下が進行している
- 歩行が不安定になっている
- 排尿・排便のコントロールが難しくなっている
代表的な手術方法は2つあります。前方除圧固定術は、首の前方から骨や椎間板を取り除き、頸椎を安定させる方法です。椎弓形成術は首の後方から骨を広げ、神経の通り道(脊柱管)を拡大します。
どちらが適しているかは、圧迫の場所や症状の程度によって異なります。手術にはリスクもあるため、医師と十分に相談して納得したうえで選択することが大切です。
頸椎症の予防法
頸椎症は、一度改善しても生活習慣を見直さなければ再発する可能性がある病気です。首に負担をかけない姿勢や習慣を意識することで、進行を防ぎ、健康な状態を保つことができます。日常生活で意識したい予防のポイントは以下の3つです。
- スマホ・PC使用時の正しい姿勢を意識する
- 運動・栄養・休養のバランスを整える
- 定期的な検診で早期発見・再発防止
スマホ・PC使用時の正しい姿勢を意識する
スマホやPCを使うときの姿勢は、頸椎への負担を大きく左右します。長時間のうつむき姿勢は首の筋肉や関節に強いストレスを与え、頸椎の変性を早める原因になります。正しい姿勢と環境を意識することで、首への負担を最小限に抑えることができます。
よりスマホやPCを快適に使うためのポイントは以下のとおりです。
| 項目 | ポイント |
| 目線の高さ | ・スマホやPC画面は目線のやや下にくるように調整する ・机の高さやモニター台を活用する |
| あごと背筋 | ・あごを軽く引き、背筋をまっすぐ伸ばす ・猫背や前傾姿勢は首に大きな負担がかかる |
| 椅子の座り方 | ・椅子には深く腰かけ、背もたれをしっかり使う ・足裏は床につけて安定させる |
| 作業環境の工夫 | ・モニター台やノートPCスタンドを利用して高さを調整する ・30分ごとに立ち上がり、首や肩をゆっくり動かす |
これらを意識するだけで、首の疲労や痛みを大きく軽減し、頸椎症の進行を防ぐ効果が期待できます。
運動・栄養・休養のバランスを整える
頸椎症を防ぐためには、姿勢の改善だけでなく「運動・栄養・休養」のバランスを整えることが欠かせません。首を支える筋肉や骨を健康に保ち、体全体の調和を整えることが、頸椎への負担を減らす基本です。
運動では、ウォーキングや水中ウォーキングなどの軽い有酸素運動が推奨されます。血流が良くなり、筋肉の緊張をほぐします。首や肩をゆっくり動かすストレッチもおすすめですが、痛みを感じたらすぐに中止しましょう。激しい運動や首を強く反らす動作は避けることが大切です。
栄養については、カルシウム(乳製品・小魚)やビタミンD(魚・きのこ類)を意識して摂りましょう。筋肉や軟骨を作るタンパク質(肉・卵・大豆製品)をしっかり補うことが大切です。
休養も重要です。枕の高さを調整し、仰向けまたは横向きで寝ることで首への負担を軽減します。質の良い睡眠は、体の修復を促し、頸椎を守る力を高めます。
定期的な検診で早期発見・再発防止
頸椎症は、症状が軽くても放置すると少しずつ進行する病気です。痛みが和らいでも自己判断で様子を見ず、定期的な検診で早期発見・再発防止を行うことが大切です。専門家による診察を受けることで、見えない進行や生活習慣の影響を早い段階で把握できます。定期検診では、次のような確認を行います。
- 問診で症状の経過や生活習慣を詳しく確認
- 首や肩の可動域、筋力、感覚を丁寧にチェック
- 必要に応じてレントゲンやMRIで骨・神経の状態を把握
これにより、自分では気づきにくい体の変化や姿勢の癖を見つけ、症状の悪化を未然に防ぐことが可能です。専門医からは生活指導やストレッチ方法など、再発を防ぐための具体的なアドバイスが受けられます。定期的な検診を未来の自分への投資と考えて続けることが、健康な首を保つ鍵です。
以下の記事では、首筋の痛みがあるときに考えられる原因や、放置すると危険な症状、日常生活でできる対処法について詳しく解説しています。あわせて確認すると予防にも役立ちます。
>>首筋が痛いときの原因と対処法!放置すると危険な症状も解説
まとめ
頸椎症は、加齢だけでなくスマホやPCの長時間使用など、日常の習慣から誰にでも起こりうる身近な病気です。首や肩のこり、手のしびれを「疲れのせい」と放置すると、症状が進行してしまうこともあります。しかし、頸椎症は早期発見と正しいケアで改善・予防ができる可能性が高まります。
薬物療法やリハビリテーションで症状を和らげ、日常生活では姿勢や運動、休養のバランスを整えることが大切です。少しでも違和感や不調を感じたら、我慢せず専門医へ相談しましょう。早めの対応こそが、再び快適に動ける毎日を取り戻す最善の方法です。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、首や肩の痛み、腕や手のしびれ、手指の使いにくさなど、頸椎症が疑われる症状に対して、手術療法や保存療法を含めた適切な治療やリハビリの相談を専門医が丁寧に行います。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
>>診察のご案内について
参考文献
Zhang RH, Yuan WH, Yang QR, Lu Z, Zhao ZH, Shao QN, Zhang X and Wang WJ. Altered Local Spontaneous Brain Activity in Cervical Spondylotic Myelopathy: A Meta-analysis. World neurosurgery, no. (2025): 124599.
