BKP術後の禁忌はある?やってはいけない行動と回復のポイント
BKP(バルーン椎体形成術)後、痛みが軽くなって「もう大丈夫」と感じる方は少なくありません。しかし、その油断が思わぬ再骨折や合併症を招くことがあります。術後の身体は見た目以上にデリケートで、動き方や日常の習慣一つで回復のスピードが大きく変わります。
知らずに行ってしまう「やってはいけない行動」が、せっかくの治療効果を損なう原因にもなりかねません。この記事では、BKP術後に避けるべき行動や注意すべき合併症、回復を早める具体的なポイントを詳しく解説します。正しい知識を身につけ、再骨折のリスクを回避しながら、着実な回復を目指しましょう。
当院では、圧迫骨折をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
BKP術後に避けるべき行動
術後の回復を妨げるのは、痛みが取れたあとの「つい、いつものように動いてしまうこと」です。再骨折や合併症を防ぐために特に注意すべき、BKP術後に避けるべき行動は以下のとおりです。
- 体を「ひねる・丸める」動作
- 重い物を持つ行為
- 医師の許可なくコルセットを外すこと
- ベッドからの急な起き上がりや無理な立ち上がり
- 痛み軽減後の急な運動・活動再開
- 床のものを拾う・床や畳の上など低いところに座る
体を「ひねる・丸める」動作
体を「ひねる・丸める」動作は、BKP術後に最も避けるべき行動の一つです。手術で安定化した骨は強くても、その上下の椎体はもろく、少しの「ねじれ」や「前かがみ」が新たな骨折を招く原因になります。
以下は、代表的なシーンでのNG動作とOK動作の例です。
| シーン | NG動作 | OK動作 |
| 床の物を拾うとき | 腰から体を曲げる | 膝を曲げ、背筋を伸ばして拾う(そんきょ姿勢) |
| 靴下やズボンを履くとき | 背中を丸めて履く | 椅子に座り、背筋を伸ばして片足ずつ履く |
| 後ろを振り向くとき | 上半身だけをひねる | 足から体全体をゆっくり回す |
| くしゃみ・咳をするとき | 前かがみで無防備にする | 壁や机に手をつき衝撃を逃す |
これらの動作を正しく行うことで、背骨への局所的な負担を軽減できます。術後しばらくは「動かすより守る」が基本です。日常生活で意識することが、再骨折を防ぎ、確実な回復につながります。
重い物を持つ行為
重い物を持つ行為は、BKP術後の背骨に最も強い負担をかける動作の一つです。見た目には軽そうでも、前かがみで物を持ち上げると「てこの原理」で何倍もの力が背骨に集中します。10kgの荷物でも、腰には100kg以上の負荷がかかることがあるのです。
手術で骨が安定しても、周囲の筋肉や骨はまだ十分に回復していません。重い物を持つ際の注意点は以下のとおりです。
| 項目 | 注意点 |
| 重さの目安 | ・2リットルのペットボトル(約2kg)以上の物は避ける ・期間や制限は必ず医師に確認する |
| 持ち方の工夫 | ・体に引き寄せて両手で持つ ・片手持ちは避け、リュックなどで左右均等にする |
| 日常の工夫 | ・買い物はカートを使い、少量ずつ行う ・重い家事は家族に協力してもらう |
焦って無理をすれば、再骨折や痛みの再発につながりかねません。「持てる」ではなく「持たない」を基本に、背骨を守る行動を意識することが、回復への第一歩です。
医師の許可なくコルセットを外すこと
医師の許可なくコルセットを外すことは避けましょう。術後のコルセットは、痛みを和らげるためだけでなく、背骨を守り、再骨折を防ぐための医療器具です。骨セメントが骨としっかり結合し、安定するまでには時間がかかります。
自己判断で外すと、せっかく固定した骨が再びずれて、周囲の椎体に過度な力がかかる恐れがあります。コルセットの主な役割は次の3つです。
- 背骨の安定化:外部から支えて、手術部位の動揺を防ぐ
- 危険な動きの制限:体を丸めたりひねったりなどの再骨折リスクの高い動作を防ぐ
- 痛みの軽減:正しい姿勢を維持し、筋肉への負担を減らす
医師は、レントゲンで骨の癒合状態を確認し、安全に外せる時期を判断します。一般的には2〜3か月の装着が目安ですが、回復には個人差があります。痛みが軽くなっても「まだ治ったわけではない」と心得て、医師の指示があるまで装着を続けることが回復への近道です。
ベッドからの急な起き上がりや無理な立ち上がり
ベッドからの急な起き上がりや無理な立ち上がりは、BKP術後の背骨に大きな負担をかける危険な動作です。仰向けのまま腹筋を使って勢いよく起き上がると、背骨が強く丸まり、手術部位に圧力が集中します。椅子や床から前かがみで立ち上がる動きも、再骨折を招く恐れがあります。
安全に起き上がるには「横向き起き」が基本です。仰向けのまま横を向き、体をベッドの端に寄せて足をゆっくり下ろし、腕の力で上半身を押し上げましょう。椅子から立つ際は、浅く腰掛けて手すりや机に手をつき、腕で体を支えながらゆっくり立ち上がります。
床から立つ場合は、四つ這いで近くの椅子や壁に手をつき、片膝を立てて慎重に起き上がることが大切です。一つひとつの動きを丁寧に行う意識が、背骨を守り、安全な回復へとつながります。
痛み軽減後の急な運動・活動再開
痛み軽減後の急な運動や活動再開は、BKP術後に最も注意すべきポイントです。痛みがなくなっても、背骨が完全に治ったわけではありません。手術で骨折部分は固定されていますが、骨の強度や筋力は回復途中です。
急に運動量を増やしたり、家事や外出を頑張りすぎたりすると、再骨折や筋肉の損傷を招く可能性があります。安全に活動を再開するための目安は以下のとおりです。
| OKなこと(医師の許可後に開始) | NGなこと(当面は避ける) |
| 平坦な道を短時間ゆっくり歩く | 長時間・長距離のウォーキング、坂道の上り下り |
| 理学療法士の指導による軽い筋トレ | 自己流のストレッチや腹筋・背筋運動 |
| 日常生活でのゆったりした動作 | 大掃除、布団干し、庭仕事、ゴルフなどのスポーツ |
| — | 高い場所の物を取る、急な階段の上り下り |
活動を再開するときは、必ず医師や理学療法士に相談し、許可された範囲から始めることが大切です。「まだ少し物足りない」と感じる程度がちょうど良く、体の様子を見ながら少しずつ負荷を増やしていくのが回復のコツです。痛みや違和感を覚えたら、すぐに休み、次回診察時に医師へ相談しましょう。
床のものを拾う・床や畳の上など低いところに座る
BKP後は、背骨に負担をかける前かがみの動作を避けることが大切です。床に落ちたものを拾おうとして腰を曲げる動作や、畳や床に座って長時間過ごすことは背骨に大きな圧力がかかります。
ものを拾うときは、椅子やテーブルを使って腰を曲げすぎないようにしましょう。座るときは、クッションや背もたれで背中をまっすぐにして、背骨への負担を減らします。立ち上がるときは手すりや机を支えにするなど工夫しましょう。注意して行動することで、手術部位への負担を減らし、回復をスムーズに進めることができます。
BKP術後に注意すべき合併症
BKP術後は多くの方が痛みから解放されますが、安心と同時に注意も必要な時期です。術後に起こりうる合併症を正しく理解しておくことで、異変を早期に察知し、適切に対処できます。特に注意すべき代表的な合併症は以下の3つです。
- 続発性椎体骨折
- 神経のしびれや痛み
- 感染症や肺塞栓症
続発性椎体骨折
続発性椎体骨折は、BKP手術後に起こりやすい代表的な合併症です。手術で骨折した背骨はセメントで強く固定されますが、その上下の骨は骨粗鬆症の影響で弱いままです。硬い骨と弱い骨が並ぶことで、その境目に力が集中し、新たな骨折が起きてしまうことがあります。
ある研究では、BKPを受けた人の約15〜38%に発生したと報告されています。この骨折を防ぐには、骨粗鬆症の治療を続けることが何より大切です。BKPは痛みを取る治療であって、骨の強さを回復させるものではありません。体を丸めたりひねったりする動作を避け、背骨に負担をかけない生活を心がけましょう。
定期的に検診を受けて骨の状態を確認することも重要です。術後に再び背中や腰が痛むときは、すぐに医師へ相談してください。
神経のしびれや痛み
神経のしびれや痛みは、BKP術後にまれに起こる合併症です。背骨の中には、脳から足へ信号を送る脊髄という神経の束が通っています。手術で注入する骨セメントが骨の外に漏れると、この神経を圧迫してしまうことがあります。
以下のような症状が現れたときは、神経が圧迫されているサインの可能性があるため、すぐに医師へ連絡してください。
- お尻から足にかけて電気が走るような痛みやしびれ
- 足の裏の感覚が鈍く、違和感がある
- 足に力が入りにくく、つまずきやすい・スリッパが脱げやすい
- 尿や便が出にくい、または漏れてしまう
これらの症状は早期対応が何より重要です。放置すると神経に後遺症が残ることもあるため、異変を感じたらすぐに受診してください。
感染症や肺塞栓症
感染症や肺塞栓症は、BKP術後にまれに起こる合併症です。BKPは皮膚を数ミリ切開するだけの低侵襲手術で、体への負担は比較的少ないものの、リスクがゼロではない点を理解しておくことが大切です。感染症は手術部位に細菌が入ることで起こり、肺塞栓症は安静が長引くことで血の塊(血栓)が肺に詰まる病気です。
2つの代表的な合併症とその特徴を以下の表にまとめています。
| 合併症の種類 | 原因・起こり方 | 主な症状(要注意サイン) |
| 感染症 | 針を刺した傷口から細菌が侵入 | ・傷口が赤く腫れる、熱をもつ ・膿が出る ・38℃以上の発熱が続く |
| 肺塞栓症(エコノミークラス症候群) | 長時間の安静で血栓ができ、肺の血管が詰まる | ・突然の胸の痛み ・息切れや呼吸困難 ・動悸が強くなる |
これらを防ぐには、医師や理学療法士の指示を守り、できる範囲で体を動かすことが重要です。特に肺塞栓症の予防には、ベッド上で足首を動かす運動が大切になります。
BKP術後の回復を早めるポイント
BKP術後の回復を早めるためには、痛みが取れた後の過ごし方が重要です。再骨折を防ぎながら体の機能を取り戻すためのポイントとして、以下の4つを解説します。
- リハビリテーション
- 骨粗鬆症の継続的な治療
- 入浴・睡眠など日常動作の注意点
- 転倒を防ぐ住環境の工夫
リハビリテーション
リハビリテーションは、BKP術後の回復を早めるうえで重要なステップです。手術で痛みが軽くなっても、安静期間中に筋力は確実に低下しています。痛みが取れても、すぐに以前のように動けるわけではありません。
そのため、専門家の指導のもとで安全に体を動かすことが、再骨折を防ぎながら回復を進める鍵です。リハビリテーションで行われる内容は以下のとおりです。
- 歩行練習:背筋を伸ばし、ふらつかず安定して歩けるようにする
- 筋力トレーニング:背骨を支える腹筋・背筋・下肢筋を安全に強化する
- 基本動作の練習:寝返り・起き上がり・立ち上がりを背骨に負担をかけずに行う
リハビリテーションは、理学療法士が一人ひとりの回復状況を確認しながら進めます。手術翌日から無理のない範囲で開始することも可能で、一般的には週5回程度が目安です。退院後も継続することで、日常生活への復帰がスムーズになります。焦らず、専門家と二人三脚で体を整えることが確実な回復の道です。
以下の記事では、圧迫骨折におけるリハビリの開始時期や注意点、痛みが取れない原因まで詳しく解説しています。
>>圧迫骨折のリハビリはいつから?痛みが取れない原因とやってはいけない注意点も解説
骨粗鬆症の継続的な治療
骨粗鬆症の継続的な治療は、BKP術後の再骨折を防ぐために最も重要な取り組みです。手術で痛みを取っても、骨の質そのものを改善しなければ、また別の場所が折れてしまう可能性があります。骨を「強く育てる」ためには、薬・食事・運動の3つをバランス良く続けることが大切です。
主な治療法とその特徴は以下のとおりです。
| 治療法 | 内容 |
| 薬物療法 | ・骨を作る薬(テリパラチドなど)や、壊れるのを抑える薬(ビスホスホネート製剤など)を継続使用する ・注射・飲み薬など種類は生活スタイルに合わせて選べる |
| 食事療法 | カルシウム(牛乳・小魚)やビタミンD(魚・きのこ類)、ビタミンK(納豆・緑黄色野菜)を意識的に摂取し、骨の栄養バランスを整える |
| 運動療法 | ・医師の許可のもと、ウォーキングなど骨に軽い刺激を与える運動を継続する ・適度な負荷が骨を丈夫に保つ |
BKPは痛みを和らげる治療であり、骨粗鬆症の治療こそが再骨折を防ぐ根本対策です。定期的に骨密度検査を受けながら、焦らず根気よく治療を続けていきましょう。
以下の記事では、骨粗鬆症の薬の種類や効果、使い方の注意点まで詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の薬の種類一覧|治療中の注意点や効果、選び方を解説
入浴・睡眠など日常動作の注意点
BKP術後の背骨はデリケートな状態のため、日常生活の小さな動作にも注意が必要です。特に体をひねったり丸めたりする動きは、固定した骨の隣にある弱い骨へ負担をかけ、再骨折の原因になることがあります。
入浴時は、手すりにつかまり背筋を伸ばしてゆっくり動くことが大切です。体を洗う際は低い椅子に座り、前かがみにならないよう柄の長いブラシを使いましょう。
睡眠では、柔らかすぎる寝具を避け、硬めのマットレスで体をしっかり支えるのが理想です。寝返りは体をひねらず、上半身と下半身を一緒に動かすようにします。起き上がる際は、横向きになって腕の力でゆっくり体を起こしましょう。着替えは椅子に座って行い、前かがみにならないよう工夫します。
これらの基本動作を守ることが、安全な回復と再骨折予防につながります。
以下の記事では、腰椎圧迫骨折やBKP術後に適した寝る姿勢や、自宅療養中の注意点をさらに詳しく解説しています。
>>腰椎圧迫骨折のときの寝る姿勢は?痛みを和らげる姿勢と自宅療養の注意点を解説
転倒を防ぐ住環境の工夫
転倒を防ぐことは、BKP術後の再骨折を防ぐ確実な方法です。手術後は筋力やバランス感覚が一時的に低下しており、これまで平気だった段差や物につまずいて転ぶ危険が高まります。
退院は「終わり」ではなく、安全な生活を再構築する新たなスタートです。ご自宅に戻る前に、家の中を見直して転倒リスクを減らすことが大切です。転倒を防ぐために以下のポイントを確認しましょう。
- 床に物が散らかっていないか(新聞やコード、スリッパなど)
- 部屋と廊下の間に段差がないか
- じゅうたんやマットの端がめくれていないか
- 夜間の移動時、廊下や足元の照明が十分か
- 階段や浴室、トイレに手すりが設置されているか
- 室内用スリッパが滑りやすかったり脱げやすかったりしないか
1つでも当てはまれば改善が必要です。手すりの設置や段差解消には介護保険の利用も可能です。安全な住環境を整えることが、安心して自宅で暮らし続けるための第一歩です。
まとめ
BKP手術で痛みが和らぐと「もう大丈夫」と感じてしまいがちですが、術後の過ごし方こそが大切な期間です。特に、体をひねる・丸める・重い物を持つなどの動作は厳禁です。そのうえで、骨粗鬆症の治療を続け、リハビリで体を整えていくことで、背骨は強くなっていきます。
医師や理学療法士の指導を守りながら、一つひとつの動作を丁寧に行うことが、安心して日常生活を取り戻すための最短ルートです。不安や疑問があれば、ためらわず専門家へ相談しながら、確実な回復を目指しましょう。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、骨粗鬆症や外傷による圧迫骨折で、腰や背中の痛み、立ち上がりや歩行時の強い痛みがある方に対して、BKPを含めた適切な治療やリハビリの相談を専門医が丁寧に行います。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
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参考文献
Wong W, Mathis JM. Vertebroplasty and kyphoplasty: techniques for avoiding complications and pitfalls. Neurosurgical focus 18, no. 3 (2005): e2.
