圧迫骨折のリハビリはいつから?痛みが取れない原因とやってはいけない注意点も解説
圧迫骨折後「リハビリはいつから始めればいいの?」と不安を抱えていませんか。リハビリを続けているのに痛みがなかなか改善せず、焦りを感じている方も少なくありません。長引く痛みの背景には、骨の癒合(ゆごう)状態や筋力の低下など、複数の要因が関係していることがあります。
この記事では、圧迫骨折の回復段階に応じた「3つの時期別リハビリ」プログラムを紹介します。見落とされがちな痛みの原因や回復を妨げる「やってはいけない3つの注意点」もわかりやすく解説します。後遺症を防ぎ、安心して日常生活を取り戻すために、無理のない適切なリハビリの進め方を確認しましょう。
当院では、圧迫骨折をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
圧迫骨折後のリハビリ:3つの時期別プログラム
圧迫骨折後のリハビリを、以下の3つの時期に分けて、それぞれの目的と具体的な内容を解説します。
- 急性期(受傷〜約3週間):安静・関節可動域を保つ軽い運動
- 回復期(約1〜3か月):コルセット装着下での歩行・動作訓練
- 維持期(約3か月以降):体幹・下肢筋力の強化と姿勢改善
急性期(受傷〜約3週間):安静・関節可動域を保つ軽い運動
骨折した直後の急性期は、安静を保つことが最優先です。痛みが強く、無理に動くと潰れた背骨(椎体)の変形が悪化する恐れがあります。しかし、ただ寝ているだけでは、関節が固まり(関節拘縮)、筋肉が衰える廃用症候群が進行する可能性があります。骨折部に負担をかけない範囲で、ベッド上でのリハビリを早期から開始します。
急性期のリハビリの目的は、以下の3つです。
- 痛みを和らげる
- 骨折した背骨を安定させ、回復を促す
- 寝たきりによる関節の固まりや筋力低下を防ぐ
以下のリハビリを、痛みを感じない範囲で始めましょう。
- 足首をゆっくり上下に動かしたり、回したりする関節可動域訓練
- ベッドに寝たまま足の指を動かしたり、腕を上げ下げしたりする軽い筋力トレーニング
- 深く息を吸って、ゆっくり吐き出す呼吸練習(深呼吸)
いずれも医師や理学療法士の指示のもとで行ってください。
回復期(約1〜3か月):コルセット装着下での歩行・動作訓練
痛みが和らぎ、骨がある程度安定してきたら、専用コルセットを装着したうえで、体を起こす訓練を始めます。回復期のリハビリの目的は、以下の3つです。
- 日常生活に必要な基本動作を再び獲得する
- 低下した筋力や体力を回復させる
- 背骨に負担の少ない体の使い方を身につける
目標は、基本的な日常生活動作(起き上がることや座る、立つ、歩く)を取り戻すことです。安静期間中に筋力やバランス感覚が低下しているため、焦らず慎重に進めることが大切です。以下は回復期に行われるリハビリの一例です。
- ベッドの背もたれを少しずつ上げる離床訓練
- 手すりや椅子を支えにした立ち上がり訓練
- 平行棒や歩行器、杖を使用した歩行訓練
- 椅子に座ったままの足踏みや、浅く腰掛けて立ち座りを繰り返す下肢筋力トレーニング
コルセットは骨の癒合が進むまでの重要なサポート具です。医師の指示に従い、自己判断で外さないようにしましょう。
維持期(約3か月以降):体幹・下肢筋力の強化と姿勢改善
骨が癒合し、日常生活での痛みが落ち着いてくる時期です。本格的なリハビリは、受傷後2か月以降から徐々に強化していくのが一般的です。維持期のリハビリの目的は、次の3つです。
- 仕事や趣味など、より活動的な生活への復帰を目指す
- 転倒や軽い衝撃による再骨折のリスクを減らす
- 背中が丸くなる円背(えんぱい)の進行を抑え、良い姿勢を保つ
圧迫骨折は再発しやすいため、骨粗鬆症の治療とあわせて筋肉の強化が重要です。背骨に負担をかけない生活習慣を身につけることも再発予防につながります。以下は、維持期に行うリハビリの一例です。
- 息を吐きながらお腹をへこませる「ドローイン」など、腰に負担の少ない体幹トレーニング
- ゆっくり行うスクワットや、かかと上げ運動などの下肢筋力強化
- 目を開けたまま片足で立つバランストレーニング
- 背筋を伸ばし「前かがみ」や「ねじり」動作を避ける姿勢の習得
退院後も、専門家の指導のもと無理なくリハビリを続けましょう。
それぞれの時期に応じたリハビリを計画的に行うことで、骨折部の安定を促し、日常生活への早期復帰を目指すことができます。以下の記事では、圧迫骨折の原因や症状、治療法、放置した場合のリスクについて詳しく解説しています。
>>圧迫骨折とは?原因や症状、治療法と放置するリスクを解説
リハビリをしても痛みが取れない原因
リハビリをしても痛みが取れない原因について、以下の内容を解説します。
- 骨癒合が不十分で不安定性が残っている
- 背筋・腹筋などの支持筋力が低下している
- 胸腰筋膜など筋肉や靭帯の損傷がある
- 骨粗鬆症が改善されず骨が脆弱なまま
骨癒合が不十分で不安定性が残っている
痛みが続く原因の一つは、骨折した背骨がうまく癒合できないことです。医学的に骨癒合不全(こつゆごうふぜん)や偽関節(ぎかんせつ)と呼びます。骨が正しくつかず、不安定な状態が続くと、骨折部がグラグラと動き、周囲の神経を刺激して痛みがなかなか改善しません。骨癒合がうまくいかない主な要因は、以下のとおりです。
- 骨のつぶれ方が大きい
- 骨折部への血流が悪い
- 安静期間が不十分
骨の損傷が激しいと、修復に時間がかかったり、難しくなったりします。骨の修復には、血液が運ぶ栄養や酸素が不可欠です。血の巡りが悪いと、回復が遅れる原因になります。つぶれた背骨(椎体)が変形したまま固まろうとすると、背骨全体のバランスが崩れます。
その結果、周りの筋肉や関節に余計な負担がかかり、慢性的な痛みを引き起こすことがあります。
背筋・腹筋などの支持筋力が低下している
圧迫骨折の治療中は、体を動かす機会が減るため、背骨を支える筋肉(支持筋力)が低下しやすくなります。背骨の周りにある背筋や腹筋は「体幹筋」と呼ばれ、背骨を安定させる重要な役目を担っています。筋力が低下すると、背骨を支える力が弱まり、結果的に背骨への負担が増すと考えられています。
筋力低下による痛みの悪循環は、次のように進行します。
- 安静期間により、背骨を支える筋力が低下する
- 筋肉の支えが弱くなり、背骨が不安定になる
- 動作のたびに不安定な部位に負担がかかり、痛みが生じる
- 痛みを避けて体を動かさなくなる
- さらに筋力が低下し、1.に戻る
悪循環を断ち切るには、リハビリを通じて弱った筋肉を鍛え直し、背骨の安定性を回復させることが重要です。
胸腰筋膜など筋肉や靭帯の損傷がある
圧迫骨折が起こるほどの強い衝撃は、骨だけでなく周囲の筋肉や、筋肉を包む筋膜(きんまく)まで損傷していることがあります。なかでも背中から腰にかけて広がる胸腰筋膜(きょうようきんまく)と呼ばれる丈夫な膜の損傷は重要です。骨と骨をつなぐ靭帯(じんたい)などの軟部組織の損傷も、痛みの原因となることがあります。
筋肉や筋膜が原因の痛みには、次の特徴があります。
- じっとしていても、重だるさやズキズキする痛みが続く
- 体を反らす・ひねるなどの特定の動きで痛みが悪化する
- 背中や腰に常に張りやこわばりがある
骨折そのものによる痛みは時間の経過とともに軽減していきますが、損傷を受けた筋肉や筋膜が硬くなったり、炎症が続いたりすることで、鈍い痛みが残ることがあります。
骨粗鬆症が改善されず骨が脆弱なまま
圧迫骨折を起こす方の多くは、背景に骨粗鬆症という病気を抱えています。骨粗鬆症とは、骨の密度が低下して骨の質も劣化することで、骨がスカスカでもろくなる病気です。骨がもろい状態だと、リハビリに取り組んでもなかなか改善しにくくなります。骨が弱いことで骨癒合が遅れ、慢性的な痛みが続くこともあります。
くしゃみや寝返りなどの日常的な動作によって、新たな骨折(連鎖骨折)が生じるリスクも高まります。研究では、骨密度が低いことが治療後に痛みが残りやすい要因の一つとして報告されています。リハビリで周囲の筋肉を鍛えても、土台である骨がもろいままでは根本的な改善にはつながりません。
圧迫骨折の治療では、骨折のリハビリと、骨粗鬆症の治療を並行して行うことが重要です。食事や運動、薬物療法などを組み合わせることで骨の強化を図り、痛みの改善と再発防止が期待できます。
以下の記事では、骨粗鬆症の原因や症状、放置した場合のリスク、早期発見のポイントについて詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の原因は?症状や放置するリスク、早期発見のポイントを解説
日常生活でやってはいけない注意点
日常生活でやってはいけない3つの注意点を解説します。
- 体をひねる・急に前かがみになる動作
- 重い物を持つ・長時間同じ姿勢を続ける
- 痛みを我慢して無理にリハビリを続ける
体をひねる・急に前かがみになる動作
体を「ひねる」動作や「急に前かがみになる」動作は骨に負担をかけ、回復を妨げる可能性があります。骨がしっかり癒合するまでは、背骨を一本の棒のようにまっすぐ保つ意識が大切です。以下のような日常の何気ない動作には注意しましょう。
- 床に落ちた物を背中を丸めて拾う
- 靴下を履く・足の爪を切るなど前かがみの姿勢になる
- 急に後ろを振り向く
- 勢いよく椅子に座る
体をひねる・急に前かがみになる動作は、無意識のうちに行ってしまい、本人が気づかないこともあります。ご家族に見守ってもらい、危険な動きがないかを見てもらうのも良い方法です。
重い物を持つ・長時間同じ姿勢を続ける
重い物を持つ動作は、てこの原理によって背骨に体重の数倍もの負担をかけることがあります。特に床にある物を持ち上げる際は、前かがみの姿勢が加わるため、圧迫骨折の再発のリスクが高まります。治療中は、軽いものでも油断せず慎重に持つことが大切です。
長時間同じ姿勢でいることも避けましょう。同じ姿勢を続けると、背中周りの筋肉が緊張し、血流が悪化して痛みを引き起こす原因となることがあります。背骨への負担を軽減するために、日常生活では次の点に注意しましょう。
- 重いものを持たない
- 座る姿勢に気をつける
- こまめに休憩をとる
デスクワークや立ち仕事などで同じ姿勢が続く場合は、30分〜1時間に一度を目安に立ち上がり、軽く体を伸ばすことが推奨されます。姿勢を変えるだけでも筋肉の緊張を緩和する効果が期待できます。
痛みを我慢して無理にリハビリを続ける
リハビリは回復に欠かせませんが、痛みを我慢して続けると、骨折部の炎症が悪化する可能性があります。痛い部分を無意識にかばうことで、他の関節を痛めることにもつながります。以下の症状がある場合は、リハビリを中止して医師や理学療法士に相談してください。
- リハビリ中にいつもより強い痛みがある
- リハビリの後に痛みが残ったり、悪化したりする
- 足にしびれや麻痺が出てきた(神経圧迫の可能性)
- 痛む場所が変わってきた
焦らず、無理のないペースで進めることが回復への近道です。
日常生活では、無理のない範囲で体を動かし、必要に応じて姿勢を工夫することが再骨折予防にもつながります。以下の記事では、腰椎圧迫骨折のときの寝る姿勢や自宅療養の注意点について詳しく解説しています。
>>腰椎圧迫骨折のときの寝る姿勢は?痛みを和らげる姿勢と自宅療養の注意点を解説
まとめ
リハビリで大切なのは、焦らず、体の状態に合わせて段階的に進めることです。痛みが長引く場合は、骨の回復だけでなく筋力低下や骨粗鬆症など、さまざまな要因が関係している可能性があります。自己判断で無理をしたり、痛みを我慢したりするのは避けましょう。
不安な点や気になる症状があれば、迷わず医師や理学療法士に相談してください。専門家と連携して取り組むことが、回復と再発予防につながります。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、転倒後の腰の痛みや背中の違和感、立ち上がりや歩行で強く痛むなど、圧迫骨折が疑われる症状に対して、専門医が丁寧に相談に応じます。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
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参考文献
Wenlong Li, Bing Zhang, Chencheng Mei, Hui Li, Ruizheng Zhu, Hao Lin, Jianmin Wen, Yang Wu, Xianzhi Ma. The Prevalence and Risk Factors of Residual Back Pain After Vertebroplasty for Osteoporotic Vertebral Compression Fractures: A Systematic Review and Meta-Analysis. Orthop Surg, 2025, 17, 8, p.2266-2280
