圧迫骨折とは？原因や症状、治療法と放置するリスクを解説

急激な腰痛に「またぎっくり腰？」と自己判断していませんか。痛みは筋肉ではなく、背骨が潰れる圧迫骨折が原因の可能性があります。圧迫骨折は、尻もちやくしゃみなどの日常生活の動作で起こり、気づかないうちに進行している場合も少なくありません。

痛みを放置すると慢性化し、背中が曲がり寝たきりの状態を引き起こす可能性があります。この記事では、圧迫骨折の原因や症状、治療法などを解説します。急激な腰痛の原因を知り、将来の健康リスクを軽減させましょう。

当院では、圧迫骨折をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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圧迫骨折とは？骨が圧力により押しつぶされて変形する骨折

圧迫骨折は、背骨を構成する椎体が上下からの力で潰れてしまう骨折です。椎体がもろいと尻もちなどの軽い衝撃や、くしゃみをしただけで潰れてしまう場合があります。ぎっくり腰と圧迫骨折は、痛みの原因が異なります。圧迫骨折とぎっくり腰の違いは以下のとおりです。

項目	圧迫骨折	ぎっくり腰(急性腰痛症)
痛みの原因	骨が潰れる	筋肉や靭帯が傷つく
診断方法	レントゲン検査で骨の変形を確認できる	画像検査での判別は難しい

圧迫骨折は骨に影響が出ているため、レントゲンで潰れていることがわかります。自己判断で放置していると、痛みが長引いたり背骨が曲がってしまったりする危険性があります。受傷直後は椎体の変化が少ないため、MRI検査でなければ診断がつかない場合があります。整形外科を受診し、痛みの原因を正確に調べることが大切です。

圧迫骨折の主な原因

圧迫骨折を引き起こす主な原因について、以下の3つを解説します。

• 骨粗鬆症
• 外傷性の圧迫骨折(スポーツや交通事故など)
• 若年層と高齢者で異なる発症要因

骨粗鬆症

圧迫骨折の原因に骨粗鬆症があります。骨粗鬆症は、骨の密度が減ることで骨がもろくなり、強度が低下している状態です。2022年、65歳以上の骨粗鬆症で通院している方は約231万人、65歳女性は約216万人であることが発表されています。

閉経後の女性は、ホルモンの影響で骨がもろくなるため注意が必要です。骨粗鬆症による圧迫骨折は、以下のタイミングで起こりやすいです。

• くしゃみや咳をしたとき
• 尻もちをついたとき
• 重いものを持ち上げようとしたとき
• ベッドから起き上がろうとしたとき

ご本人が骨折したことに気づかず、いつのまにか骨折しているケースがあります。背中が丸くなったり身長が縮んだりするのは、骨粗鬆症による圧迫骨折が原因の可能性もあります。

骨粗鬆症は初期には自覚症状がほとんどないため、気づかないまま骨折に至ることもあります。以下の記事では、骨粗鬆症の原因や症状、放置した場合のリスク、早期発見のポイントについて詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の原因は？症状や放置するリスク、早期発見のポイントを解説

外傷性の圧迫骨折(スポーツや交通事故など)

骨が健康でも強い力が背骨に加わると、外傷性(がいしょうせい)圧迫骨折を起こす可能性があります。骨の強度を上回る大きな衝撃が、背骨に縦方向に集中すると発生しやすいです。外傷性圧迫骨折は、以下の場面で引き起こしやすいです。

• 交通事故：追突事故、バイク・自転車での転倒
• 転落事故：脚立や階段、屋根など高い場所からの転落
• スポーツ外傷：スキーやスノーボードでの転倒、ラグビーや柔道での衝突、体操での着地の失敗

外傷性圧迫骨折の場合は、強い痛みを伴うことが多いです。強い痛みが生じる場合は無理に動かず、救急車を呼び早急に専門医の診察を受けることが重要です。

若年層と高齢者で異なる発症要因

圧迫骨折の原因は、若年層と高齢者で異なります。以下の表で示すそれぞれの年代で注意すべき点を理解すると、予防と早期発見につながります。

年齢層	主な原因	きっかけとなる力の強さ	特徴
高齢者	骨粗鬆症による骨の脆弱化	弱い力	・日常のささいな動作で発症しやすい ・骨折に気付かない人も多い
若年層	スポーツ外傷や交通事故など	強い力	・骨の強度を上回る大きな衝撃で発症する ・骨折の要因が明らかである

高齢者の場合、骨粗鬆症による骨の質が低下していることが多いです。若年層では骨の健康状態に関わらず、過度の衝撃が原因につながります。過度なスポーツトレーニングで特定の骨に繰り返し負担がかかり、疲労骨折が原因となる場合もあります。

圧迫骨折の主な症状

圧迫骨折では、以下のような特徴的な症状が現れます。

• 背中・腰の強い痛み
• 姿勢変化(身長が縮む・背中が曲がるなど)
• 神経症状(脚のしびれや麻痺など)

背中・腰の強い痛み

圧迫骨折で多く現れる症状は、背中や腰に生じる激しい痛みです。骨が潰れて炎症が起きたり、不安定な背骨を支えようとして周りの筋肉が異常に緊張したりすることで、強い痛みが生じます。ぎっくり腰と勘違いする人も多いですが、圧迫骨折の痛みには以下の特徴があります。

• 動作の開始時に力が入ると、鋭い痛みが起こる
• 横になり安静にしていると痛みが緩和される
• 骨折した部分を押したり叩いたりすると痛む

急性期の痛みが落ち着いた後も、体を動かすたびに鈍い痛みが続く方もいます。痛みが日常生活の妨げになる前に、専門医に相談しましょう。

姿勢変化(身長が縮む・背中が曲がるなど)

圧迫骨折は椎体が潰れて変形してしまうため、体の見た目に変化が現れる場合があります。特に、ご本人が気付いていない骨折が複数箇所で起こると、徐々に姿勢が変化していきます。姿勢変化については、以下をチェックしましょう。

• 身長が若い頃に比べて2㎝以上縮んだ
• 背中が丸くなってきた
• お腹がぽっこり出て見える

丸くなった背中は肺や心臓を圧迫し、息切れや動悸の原因につながる危険性があります。胃が圧迫されることで、食欲不振や逆流性食道炎を引き起こしやすいです。全身の健康に影響を及ぼす可能性があるため、姿勢変化に気付いたら専門医の受診を検討しましょう。

神経症状(脚のしびれや麻痺など)

圧迫骨折の症状で注意が必要なのが、神経症状です。重症の場合、潰れた骨の破片が脊柱管の中にはみ出し、脳から足へつながる脊髄や、枝分かれする神経を圧迫する場合があります。以下の症状に該当する場合は、注意が必要です。

• お尻から太ももの裏、ふくらはぎにかけて電気が走る痛みやしびれがある
• 足に力が入りにくく、階段の上り下りが辛く、つまずく
• スリッパが意図せず脱げてしまうなど、足首を動かしにくい
• 少し歩くと足がしびれて歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになる
• 尿や便が出にくかったり、自分の意思と関係なく漏れてしまったりする

症状が当てはまる場合は、神経が傷ついている可能性があります。神経症状を放置すると、症状が悪化して歩行が困難になったり、しびれや麻痺が後遺症として残ったりする危険性があります。排尿や排便に関する膀胱直腸障害は、早急な対応が必要であるため医師の診察を受けてください。

圧迫骨折の治療法

圧迫骨折の主な治療法は、以下のとおりです。

• 保存療法
• 手術療法：BKP(椎体形成術)
• 薬物療法
• リハビリテーション

保存療法

圧迫骨折の多くの人が行うのが、保存療法です。潰れた椎体が、自然に固まるのを待ちます。骨が安定するまでの間、背骨に余計な負担をかけない環境を整えることが大切です。具体的には、以下の治療内容が行われます。

• 安静：骨折して最初の数週間は、ベッドの上で安静にし背骨への負担を最小限にする
• コルセット(装具)の使用：骨が安定するまでの約3か月間、装着を続ける
• 活動の制限：コルセットをつけている間も、体をひねる、重いものを持つ動作を避ける

保存療法を適切に行うことで、多くの方が手術をせずに回復を目指せます。

手術療法：BKP(椎体形成術)

保存療法を2週間以上続けても痛みが取れない場合や、背骨の変形が進む場合には、手術療法を検討します。代表的な手術は「BKP(Balloon Kyphoplasty：経皮的後弯矯正術)」で「バルーン椎体形成術」と呼ばれています。

手術は、背中に5mmほどの小さな穴を開け、細い管を骨折した背骨まで挿入します。管の先についた風船(バルーン)を慎重に膨らませ、潰れた骨を持ち上げて形を整えます。できた空間に骨セメントを注入し、骨を内側から固めて安定させる方法です。BKPの主な特徴とメリットは以下のとおりです。

• 傷口が小さく、出血もほとんどないため体への負担が少ない
• 手術時間は10〜20分程度と短い
• 手術後、早い段階で痛みが和らぐことが多い
• 早期に起き上がってリハビリを開始できる

体への負担が少なく術後早期のリハビリ開始も可能になるため、筋力低下や社会復帰を目指せます。一方で、BKPで注意するべきデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

• セメントが骨の外に漏れ出す
• 隣の背骨が新たに骨折する
• 感染症やアレルギー反応

骨折して2〜4週間の比較的早い段階で手術を導入すると、痛みの改善が期待できることが報告されています。手術は感染症や合併症リスクを伴うため、主治医からの説明を受け相談したうえで決定しましょう。

BKPは手術後の回復を早めるメリットがある一方で、日常生活での注意点や行ってはいけない動作もあります。以下の記事では、BKP術後に注意すべき禁忌や回復のポイントについて詳しく解説しています。
>>BKP術後の禁忌はある？やってはいけない行動と回復のポイント

薬物療法

圧迫骨折の治療では、安静やコルセットと並行して、薬物治療も行います。薬物療法の目的は、痛みの緩和と骨粗鬆症の改善の2つあります。骨折による強い痛みに対して、苦痛を和らげる目的で使用する主な薬剤は、以下の2種類です。

• 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)：炎症を抑え、痛みを和らげる
• アセトアミノフェン：比較的副作用が少なく、高齢の方にも使いやすい

使用する薬剤は、主治医の診察や問診で選択します。2つ目の目的は、骨粗鬆症の治療です。骨粗鬆症を改善するために、以下の薬で再骨折予防を目指します。

• 骨の破壊を抑える：ビスホスホネート製剤・SERMなど
• 骨の吸収を助ける：ビタミンD・ビタミンK・カルシウム製剤など
• 新しい骨を作るのを助ける：副甲状腺ホルモン(PTH)製剤など

一度骨折した骨を治すだけでなく、再骨折を防ぐことが薬物療法の大切な役割です。

リハビリテーション

リハビリテーションは寝たきりを防ぎ、復帰後の生活を取り戻すための治療法です。安静にしすぎると、足腰の筋力が落ちてしまい、回復が遅れる場合があります。専門家の指導のもと、適切な時期から安全に体を動かしていく必要があります。

急性期のリハビリ目的は、寝たきりによる体力低下を防ぐことです。ベッド上で足首を動かして血栓の予防をしたり、深呼吸で肺炎を予防したりします。回復期は、コルセットを装着したリハビリテーションです。理学療法士と一緒に、起き上がる練習や立ち上がる練習、歩く練習へと活動範囲を広げます。

維持期は骨が安定するため日常生活への復帰と、再骨折予防を目指します。転ばないためのバランス訓練や、骨を強くするためのウォーキングなどを行います。患者さんの状態に合わせた、安全な体機能の回復が大切です。

リハビリテーションは骨折の回復過程で重要な役割を果たしますが、開始時期や運動の内容を誤ると痛みが長引いたり、再骨折のリスクが高まったりすることがあります。以下の記事では、圧迫骨折後のリハビリ開始時期や注意点、やってはいけない動作について詳しく解説しています。
>>圧迫骨折のリハビリはいつから？痛みが取れない原因とやってはいけない注意点も解説

圧迫骨折の放置リスク

圧迫骨折を放置した場合、以下のリスクにつながる危険性があります。

• 慢性痛
• 背中の変形(後弯)による姿勢悪化
• 呼吸・消化機能の低下
• 寝たきりリスク
• 骨粗鬆症放置による再骨折の危険性

慢性痛

圧迫骨折の後遺症に慢性痛があります。骨が変形したまま固まると、背骨全体のバランスが崩れ、周囲の筋肉や靭帯に負担がかかり、鈍い痛みが続くようになります。慢性痛が起こる主な原因には、以下があげられます。

• 背骨の不安定化：潰れた骨で背骨が不安定になり痛みが生じる
• 筋肉への過剰な負担：背中や腰の筋肉が緊張し凝り固まっている
• 神経への刺激：変形した骨が近くの神経に触れ、しびれや痛みを引き起こす

慢性痛は安静にしていても痛みが取れず、少し動いただけで痛みがぶり返し日常生活に支障をきたします。治療を受けずにいると、慢性的な痛みや歩行障害を招く危険性があるため、早期の対応が重要です。

背中の変形(後弯)による姿勢悪化

圧迫骨折を放置すると背骨が潰れたまま固まり、背中が丸く曲がる脊椎後弯変形(せきついこうわんへんけい)が生じます。椎体は前側が潰れやすい性質であるため、骨折すると背骨全体が前に曲がってしまいます。姿勢悪化が引き起こす二次的な問題は、以下が挙げられます。

• 身長の低下：若い頃より身長が数センチ低くなる
• バランス能力の低下：体の重心が前にずれてしまい、バランスが取りにくい
• 他の関節への負担増：首や膝、股関節などに負担がかかり痛みの原因になる

バランス能力の低下は、転倒して新たな骨折をするリスクが高まります。また、一度変形して固まった背骨を、元の状態に戻すのは困難です。骨折の初期段階でコルセットなどを用いて正しく固定し、変形を防ぐことが大切です。

呼吸・消化機能の低下

背中が丸く曲がる脊椎後弯変形は、体の内側の内臓にも影響を及ぼします。背骨が曲がることで胸郭や腹腔が狭くなるため、内臓が圧迫されて正常に働けなくなります。胸郭と腹腔に対して、以下の影響があります。

影響を受ける臓器	具体的な症状
肺・心臓	・胸の空間が狭くなり、肺が十分に膨らまない ・少し動くと息切れがしたり、呼吸が浅くなったりする ・重症化すると、肺炎などの呼吸器感染症にかかりやすい
胃・腸	・お腹が圧迫され胃腸の働きが低下する ・食欲低下、逆流性食道炎になる ・便秘傾向になる

背骨の変形は、全身の健康状態に影響する可能性があります。息苦しさや食欲不振などの症状は、生活の質(QOL)を低下させる要因になります。

寝たきりリスク

圧迫骨折は、筋力低下によって寝たきりにつながる危険な状態です。高齢の方の場合、1か所の骨折で機能が低下してしまう場合があります。圧迫骨折から寝たきりへは、以下の経過をたどりやすいです。

1. 痛みによる活動量の低下：動作のたびに激しい痛みが走るため、動くのが億劫になる
2. 筋力の低下：長期間ベッドで過ごすことで足腰の筋肉が衰える(廃用症候群)
3. 体機能の低下：低下した筋力の影響で立ち上がりや歩行が困難になる
4. 意欲の低下と閉じこもり：痛みと体の不自由さから外出する気力がなくなる
5. 寝たきり状態へ：自力で起き上がれず寝たきり状態に至る

経過を予防するためには、痛みを適切にコントロールして早期のリハビリテーション開始が重要です。

骨粗鬆症放置による再骨折の危険性

圧迫骨折は、次の骨折に注意を払う必要があります。一度圧迫骨折すると、他の背骨も骨折するリスクが高まります。主な原因は骨粗鬆症です。再骨折のリスクを高める2つの要因は、骨粗鬆症の未治療と背骨のバランスの崩れです。

骨粗鬆症の未治療は、骨がもろい状態が継続しているため、くしゃみや尻もちなどがきっかけで再び骨折しやすいです。背骨のバランスの崩れは、1か所の骨折で潰れた背骨の上下にある骨に過度の負担がかかります。そのため、他の骨に比べて骨折しやすい状態となります。

圧迫骨折の治療と同時に、骨粗鬆症の検査(骨密度測定など)を受けましょう。必要であれば薬物療法などによる治療を開始することが、再骨折を防ぐために重要です。

まとめ

急激な腰痛を自己判断で放置してしまうと、痛みが長引くだけでなく、背骨の変形や内臓機能の低下や寝たきりなどの危険性があります。長期的な痛みで苦痛を感じたり、変形して固まったりした背骨は矯正するのが難しいです。圧迫骨折の原因には骨粗鬆症が関わっていることが多く、根本的な治療が必要です。

骨粗鬆症の未治療は、再び圧迫骨折を引き起こす可能性があります。急な背中や腰の痛みを感じたら、我慢せずに整形外科を受診して診断を受けることが大切です。早期に適切な治療を始め、つらい痛みを乗り越えて、再び活動的な毎日を目指しましょう。

当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、転倒後の腰の痛みや背中の違和感、立ち上がりや歩行で強く痛むなど、圧迫骨折が疑われる症状に対して、専門医が丁寧に相談に応じます。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
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参考文献

• Seah SJ, Yeo MH, Tan JH, Hey HWD. Early cement augmentation may be a good treatment option for pain relief for osteoporotic compression fractures: a systematic review and meta-analysis. European Spine Journal, 2023, 32, 5, p.1751-1762
• 厚生労働省：国民生活基礎調査の概況(令和4年)