骨粗鬆症の原因は?症状や放置するリスク、早期発見のポイントを解説
身体の変化を「年のせい」と見過ごしていませんか?骨粗鬆症は「サイレント・ディジーズ」とも呼ばれ、痛みなどの自覚症状がないまま進行し、些細な衝撃で骨折に至る可能性のある病気です。骨粗鬆症の患者さんの多くは女性で、特に閉経後の女性は注意が必要です。
放置すれば、些細な転倒が寝たきりや要介護につながる可能性があります。遺伝的要因が関わることもわかっており、ご家族に骨折しやすい方がいる場合も他人事ではありません。この記事では、骨粗鬆症の多様な原因から、早期発見のポイントまで詳しく解説します。
正しい知識を身につけて、将来も自分の足で歩き続ける健康な骨を守りましょう。
当院では、骨粗鬆症をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
骨粗鬆症を引き起こす主な原因
骨粗鬆症を引き起こす主な原因は以下の5つです。
- 加齢やホルモンバランスの変化
- 栄養バランスの乱れ(カルシウム・ビタミンD不足など)
- 生活習慣の影響(運動不足・喫煙・飲酒など)
- 持病や薬の影響(糖尿病・ステロイド薬など)
- 遺伝的な要因
加齢やホルモンバランスの変化
骨は毎日新しく生まれ変わっています。身体の中では、古い骨を壊し(骨吸収)、新しい骨を作る(骨形成)という働きが絶えず行われています。年を重ねると、骨を作るスピードよりも壊すスピードが速くなり、骨の中身がだんだんと減ります。
女性は50歳前後で迎える閉経により、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が減少します。エストロゲンには、破骨細胞(骨吸収を行う細胞)の過剰な活動を抑制する重要な役割があります。エストロゲンの分泌が減少すると破骨細胞の活動が活発になり、骨の量が急速に減少していきます。
栄養バランスの乱れ(カルシウム・ビタミンD不足など)
丈夫な骨を維持するには、バランスの良い食事が重要な要素の一つです。栄養素の役割と代表的な食材は、以下のとおりです。
| 栄養素 | 役割 | 代表的な食材 |
| カルシウム | 骨の主成分となる | 牛乳やチーズ、小魚、豆腐など |
| ビタミンD | カルシウムの吸収と利用を助ける | きのこ類や魚 |
| ビタミンK | カルシウムを骨に定着させる | 納豆やほうれん草など |
| タンパク質 | 骨の基盤(コラーゲン)を形成する | 肉や魚、卵、大豆製品など |
栄養素がバランス良く働くことで、丈夫な骨が作られます。骨の量は一般的に20代後半頃にピークを迎えます。若い頃に無理なダイエットをして栄養が不足していると、骨粗鬆症になるリスクが高まると言われています。
生活習慣の影響(運動不足・喫煙・飲酒など)
骨は筋肉と同じように、適度な刺激や負荷をかけることで強くなり、刺激や負荷がないと弱る性質があります。運動不足は、骨量を減らす大きな原因です。ウォーキングや軽いジョギングなどの運動は、骨を作る細胞を活発にします。運動不足以外の骨の健康を損なう生活習慣は、以下のとおりです。
- 喫煙
- 過度の飲酒
- 日光浴不足
タバコに含まれる成分は、小腸でのカルシウム吸収を阻害しエストロゲンの作用を減弱させます。過度な飲酒は、カルシウムを尿と一緒に体外へ流出させます。1日にビール中瓶2本、日本酒なら2合以上飲む方は注意が必要です。
日光を浴びることで作られるビタミンDが不足すると、カルシウムをうまく活用できなくなるため適度な外出も大切です。
持病や薬の影響(糖尿病・ステロイド薬など)
加齢や生活習慣だけでなく、他の病気が原因で骨粗鬆症が引き起こされることがあります(続発性骨粗鬆症)。特に注意が必要な病気は、以下の4つです。
- 糖尿病
- 関節リウマチ
- 慢性腎臓病
- ホルモンの病気
高血糖が続くと骨の内部構造が変化し、骨密度が正常でも骨がもろくなり、骨折しやすくなる可能性があります。関節リウマチは続発性骨粗鬆症の代表的な原因疾患の一つです。関節リウマチの適切な治療と並行して、骨粗鬆症の検査と予防が重要です。
腎臓の働きが落ちると、カルシウムやビタミンDをうまく調節できなくなり、骨がもろくなる原因になります。副甲状腺や甲状腺のホルモンバランスが乱れる病気も、骨粗鬆症を引き起こす可能性があります。ステロイドは炎症を抑える薬ですが、骨を弱くしてしまう副作用があることも知られています。
ステロイド薬が骨代謝に与える影響は以下のとおりです。
- 骨芽細胞(骨を作る細胞)の機能を抑制
- 破骨細胞(骨を壊す細胞)の活性化促進
- 腸管からのカルシウム吸収の低下
長期間のステロイド使用は、続発性骨粗鬆症の主な原因の一つです。ステロイド使用中の方は、定期的な骨密度検査を受けることが推奨されます。早期に骨量減少を発見し、適切な予防や治療を開始することが重要です。
遺伝的な要因
研究によれば、骨の強さを左右する最大骨量は、約60〜80%が遺伝の影響を受けることがわかっています。両親や祖父母に骨粗鬆症と診断された方や少し転んだだけで骨折した方がいる場合は、骨が弱くなりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
遺伝的要素からリスクが高い方は、カルシウムを多く含む食事や、骨形成に良いとされる運動を心がけましょう。若い頃からの行動が骨粗鬆症の発症を予防したり、進行を遅らせたりできる可能性があります。
骨粗鬆症の初期症状と見逃しやすいサイン
骨粗鬆症は痛みなどの症状が少なく、気づかないうちに進行していることが多いのが特徴です。骨が弱くなるにつれて、徐々に身体に変化が現れることがあります。骨粗鬆症が進行している可能性があるサインは、以下のとおりです。
- 立ち上がりなどの動作で背中や腰が痛む
- 背中や腰が丸くなる
- 身長が若い頃より2cm以上縮む
「いつの間にか骨折」と呼ばれる、背骨が身体の重みで押しつぶされる圧迫骨折を起こしている可能性があります。気になることがあれば、専門の医療機関へご相談ください。
骨粗鬆症の放置リスク
骨粗鬆症の放置リスクとして、以下の2つを解説します。
- わずかな衝撃で起こる脆弱性骨折(背骨・手首・太ももの付け根など)
- 寝たきり・要介護・肺炎などの合併症リスク
わずかな衝撃で起こる脆弱性骨折(背骨・手首・太ももの付け根など)
骨粗鬆症を放置した場合、脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)を起こす可能性があります。健康な骨なら何ともないような、ごくわずかな力で骨が折れる状態を指します。以下の動作が、骨折の引き金になることがあります。
- 家の中で軽くつまずいた
- 大きなくしゃみをした
- 少し重い荷物を持ち上げた
脆弱性骨折が起こりやすいのは、転んだときに負荷がかかりやすい背骨(脊椎)や手首、太ももの付け根などです。くしゃみや尻もちなどの軽い衝撃で、背骨が押しつぶされるような骨折や、手をついたときに手首の骨折が起こることがあります。
太ももの付け根の骨折は、転倒によって起こることが多く、骨折が原因で歩行困難になることも少なくありません。多くの場合、手術が必要となり、手術後も寝たきりの状態となる可能性があります。
寝たきり・要介護・肺炎などの合併症リスク
骨粗鬆症による骨折、特に「太ももの付け根」の骨折は、寝たきりや要介護状態に直結するリスクがあります。厚生労働省の調査でも、高齢者が介護を必要とするようになった原因として「骨折・転倒」は上位に入っています。
手術や治療のため、長期間ベッドの上で過ごすことになると、身体には二次的な問題(合併症)が起こりやすくなります。主な合併症リスクは、以下のとおりです。
- 筋力の低下
- 呼吸器系の機能低下
- 認知機能の低下
- 皮膚の圧迫による損傷(褥瘡)
骨折で身体を動かす機会が減ることによる筋肉量の低下や、肺炎などの長期臥床(ちょうきがしょう)に伴うリスクにも注意が必要です。日常の刺激減少による認知機能への影響、同じ姿勢を続けることによる褥瘡(じょくそう)の発生など、合併症が起こる可能性があります。
骨折がきっかけとなり、身体の機能が低下し、自立した生活が難しくなることは珍しくありません。骨粗鬆症の治療は、単に骨折を防ぐだけでなく、QOL(生活の質)を維持し、自立した日常生活を継続するためにも重要です。
骨粗鬆症を早期発見するための検査
骨粗鬆症を早期発見するための検査について、以下の3つを解説します。
- 骨密度を測るDXA(デキサ)法
- 骨代謝マーカー検査
- 健診や検査を受けるタイミングの目安
骨密度を測るDXA(デキサ)法
骨粗鬆症の診断において「DXA(デキサ)法」は高い精度を持つ検査として広く用いられています。国際的に診断のゴールドスタンダード(標準的方法)として位置づけられています。2種類のエネルギーの弱いX線を使用し、骨の量を精密に測定します。DXA法の測定部位と特徴は以下のとおりです。
- 測定部位:腰の骨(腰椎)・太ももの付け根の骨(大腿骨)
- 所要時間:約10〜15分
- 検査方法:ベッドに仰向けになる
- 痛み:ほとんどなし
- X線量:胸部X線検査の約1/10
検査結果は「YAM値(若年成人平均値)」という数値で評価します。骨の量が最大になる20〜40代の健康な人の骨密度を100%とした場合の骨密度の割合を測定します。検査の基準値は以下のとおりです。
- 80%以上:正常
- 70〜80%:骨量減少
- 70%未満:治療の検討が必要
骨密度検査をご希望の方は、医療機関にご相談ください。定期的な検査により、骨の状態を把握できます。
骨代謝マーカー検査
骨代謝マーカーは、血液や尿で骨の新陳代謝の勢いを調べる検査です。骨代謝マーカーは以下の2つを調べます。
- 骨吸収マーカー;古い骨が壊されるスピード
- 骨形成マーカー:新しい骨が作られるスピード
この検査のメリットは、骨密度がまだ低下していなくても、骨を壊す働きが活発になりすぎている状態を早期に発見できることです。将来の骨粗鬆症リスクの予測や、治療開始後の効果判定にも活用されます。骨密度検査と骨代謝マーカー検査を組み合わせることで、より詳しく骨の状態を把握し、適切な治療方針の決定が可能となります。
健診や検査を受けるタイミングの目安
骨粗鬆症は、閉経後の女性に多い病気として知られていますが、男性や若い方でも発症する可能性があります。以下の項目に当てはまる方は、骨の状態をチェックすることをおすすめします。
- 40歳以上になった
- 閉経を迎えた、または月経が不規則である
- ご両親、特に母親が転んで足の付け根などを骨折したことがある
- 若い頃と比べて、身長が2cm以上縮んだ
- 背中や腰が丸くなってきた(猫背)
- 些細なことで骨折した経験がある
- 体格が痩せ型である
- タバコを吸う習慣がある
- 毎日お酒を飲む習慣がある
- 糖尿病や関節リウマチなどの病気で治療中である
- 喘息などでステロイド薬を長期間使用している(していた)
多くの自治体で骨粗鬆症検診が行われています。上記の症状に当てはまる方は、お住まいの自治体または医療機関へご相談ください。
骨粗鬆症の治療にはさまざまな薬があり、それぞれ作用の仕組みや効果、使用できる期間が異なります。内服薬との違いや注意点を知っておくことも大切です。以下の記事では、骨粗鬆症の薬の種類や特徴、治療中の注意点について詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の薬の種類一覧|治療中の注意点や効果、選び方を解説
>>骨粗鬆症の注射治療とは?効果や種類、副作用をわかりやすく解説
まとめ
骨粗鬆症は痛みなどの自覚症状がないまま進行します。放置してしまうと、くしゃみや転倒などの些細なきっかけで骨折し、寝たきりや要介護につながる可能性のある病気です。大切なのは、骨折という大きなトラブルが起きる前に、ご自身の骨の状態を正確に知ることです。
骨粗鬆症は、早期発見と早期治療が、骨折リスクを減らすために重要です。「年のせい」と自己判断せず専門の医療機関にご相談ください。早期発見と適切な対策が、健康な毎日を守るための大切な第一歩になります。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、骨粗鬆症が心配な方や骨密度の低下を指摘された方に対して、専門医が丁寧に相談に応じます。「ちょっとした衝撃で骨折しないか不安」など気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
>>診察のご案内について
参考文献
- Khushboo Agarwal, Lakshmi Nagendra, Saptarshi Bhattacharya. Approach to premenopausal osteoporosis. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes, 2025, 32(6), p.251-257
- 厚生労働省:国民生活基礎調査の概況(令和4年)
