骨粗鬆症の注射治療とは?効果や種類、副作用をわかりやすく解説
骨粗鬆症の注射治療をご存じですか?骨粗鬆症は、気づかないうちに進行し、日常のくしゃみでも骨折に至る可能性がある病気です。骨折リスクを減らす骨粗鬆症治療は自分らしい生活を守るために重要な選択肢となります。
この記事では、骨粗鬆症の注射治療について、効果や種類、副作用までを解説します。骨粗鬆症の不安を解消し、納得して治療に臨みましょう。
当院では、骨粗鬆症をはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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記事監修:川口 慎治
大室整形外科 脊椎・関節クリニック 医師
経歴:
徳島大学医学部卒業後、洛和会音羽病院に勤務
京都大学医学部整形外科学教室入局
学研都市病院脊椎脊髄センター勤務
2023年より 大室整形外科 脊椎・関節クリニック勤務
専門分野:脊椎・脊髄外科
資格:
日本専門医機構認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科専門医
骨粗鬆症の注射治療の基本
骨粗鬆症の注射治療の基本について、以下の内容を解説します。
- 骨粗鬆症治療の目的
- 注射治療が選ばれる理由
- 内服薬との使い分け
骨粗鬆症治療の目的
骨粗鬆症治療の目的は、骨折を防ぎ、生活の質を維持することです。骨が脆くなると、くしゃみや咳、尻もちをついただけでも骨折に至ります。特に背骨や足の付け根の骨折は深刻です。強い痛みを伴い、長期の入院や手術が必要となり、最悪の場合、寝たきりになる可能性があります。
骨粗鬆症の治療は、以下の目標を達成することを目指します。
- 骨密度を高めて骨を強くする
- 骨質の劣化を防ぎ、骨の強度を保つ
- 将来の骨折リスクを減らす
国際的な大規模研究では、過去に骨折を経験した人は、その後の骨折リスクが約1.8倍に上昇すると報告されています。骨粗鬆症治療によって、骨折の連鎖を断ち切ることが推奨されています。
骨粗鬆症治療の目的を理解したうえで、原因や症状について知っておくと、予防や早期対策につながります。以下の記事では、骨粗鬆症の原因や放置するリスク、早期発見のポイントについて詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の原因は?症状や放置するリスク、早期発見のポイントを解説
注射治療が選ばれる理由
骨粗鬆症の治療には内服薬もありますが、患者さんの状態によっては注射治療が選ばれることがあります。注射治療が選ばれる人には、以下の特徴があります。
- 骨折のリスクが高い人
- 内服薬での治療が難しい人
- 内服薬を継続するのが困難な人
- 内服薬の効果が十分ではない人
内服薬が体質的に合わないなど、効果が十分に期待できない場合、より効果が期待できる注射治療が推奨されています。
内服薬との使い分け
注射治療か内服薬にするかの使い分けとしては、骨の状態や骨折リスクの高さなどを総合的に評価し、最適な治療法を選択します。医師は、以下の点を考慮して治療法を提案します。
| 注射治療 | 内服薬 | |
| 特徴 | ・骨を作る「骨形成促進薬」など、効果が期待できる薬(骨形成薬は内服はなく注射のみ) ・投与方法は通院注射(週1回、もしくは月1回)、もしくは自己注射(毎日、もしくは週2回) ・骨の破壊を防ぐ「骨吸収抑制薬」もある(半年または1年に1回と頻度が少なく済む) |
・自宅で手軽に服用できる ・骨の破壊を防ぐ「骨吸収抑制薬」、種類が豊富 ・ビタミンDやカルシウムを補充する製剤 |
| どんな人に向いているか | ・骨折リスクが高い重症の人 ・内服薬が続けにくい人 ・通院回数を減らしたい人 |
・骨折リスクが中等度までの人 ・注射に抵抗がある人 ・毎日や毎週の服用を負担に感じない人 |
注射治療と内服薬の特徴を把握し、患者さん一人ひとりに最適な治療プランを考えていきます。
骨粗鬆症の注射治療の種類と効果
骨粗鬆症の注射治療の種類と効果は、以下のとおりです。
- 骨を作る「骨形成促進薬」(テリパラチドなど)
- 骨が壊れるのを防ぐ「骨吸収抑制薬」(デノスマブなど)
- 両方に作用する薬(ロモソズマブ)
骨を作る「骨形成促進薬」(テリパラチドなど)
骨形成促進薬は、新しい骨を作る「骨芽細胞」の働きを促進する薬です。背骨や足の付け根などを骨折してしまった人や、骨密度が低く、骨折の危険性が高いと判断された人に使われます。骨を作る力を高めることで、骨密度を改善する効果が期待できます。
骨形成促進薬の代表例として、テリパラチドがあります。骨密度を高める効果が期待できる反面、生涯で使用できる期間が定められています。医師に相談し、最適な時期に治療を決めましょう。
骨が壊れるのを防ぐ「骨吸収抑制薬」(デノスマブなど)
骨吸収抑制薬は、古い骨を壊す「破骨細胞」の働きを抑える薬です。骨粗鬆症の人や閉経後の女性や高齢者に使われます。骨が過剰に壊されるのを防ぎ、骨量が減っていくのを食い止めます。
骨吸収抑制薬の代表例として、デノスマブがあります。半年に1回の注射で済むため、通院の負担が少なくなります。しかし、自己判断で中断しないことが大切です。治療をやめてしまうと、骨を壊す働きが急に活発になり、骨折のリスクが高まる「リバウンド現象」が起こることがあります。治療の継続が、骨を守るうえで大切です。
一方、ビスホスホネート製剤は特に閉経後骨粗鬆症やステロイド使用による二次性骨粗鬆症で広く用いられ、エビデンスも豊富です。内服薬には週1回・月1回タイプ、注射薬には月1回・年1回タイプがあり、患者の生活スタイルに合わせて選べます。
内服時は30分以上横にならない、食事や飲み物を避けて服用するなどの注意が必要で、胃食道障害に注意します。腎機能低下例では使用に慎重を要します。
両方に作用する薬(ロモソズマブ)
ロモソズマブは、骨の生まれ変わりを調整する「スクレロスチン」に働き、骨を作る力を高め、骨の破壊を抑える効果が期待できます。骨折の危険性が高い人や他の治療法で十分な効果が得られなかった人に使われます。
ロモソズマブは、短期間で効率よく骨密度を高める効果が期待できます。ただし、1か月に1回の注射を12か月継続する必要があり、治療継続が不可欠です。治療終了後は、骨吸収抑制薬への切り替えも必要です。
骨粗鬆症の治療にはさまざまな薬があり、それぞれ作用の仕組みや効果、使用できる期間が異なります。内服薬との違いや注意点を知っておくことも大切です。以下の記事では、骨粗鬆症の薬の種類や特徴、治療中の注意点について詳しく解説しています。
>>骨粗鬆症の薬の種類一覧|治療中の注意点や効果、選び方を解説
注射治療の進め方
注射治療は、薬の種類や目的によって投与の頻度や方法が異なります。注射の投与スケジュールの目安と自己注射のポイントを解説します。
投与スケジュールの目安(毎日・週1回・月1回・半年に1回)
骨粗鬆症の注射薬は種類が豊富で、投与する間隔も違います。毎日ご自身で注射するものから、半年に一度の通院で済むものまであります。薬のタイプと投与スケジュールを以下の表に示します。
| 薬のタイプ | 代表的な薬(商品名)の投与スケジュール |
| 骨形成促進薬 | ・フォルテオ(テリパラチド):毎日の自己注射 ・テリボン(テリパラチド):週に1回の通院注射、もしくは週に2回の自己注射 |
| 骨吸収抑制薬 | ・プラリア(デノスマブ):6か月に1回の通院注射 ・ボンビバ(イバンドロネート):1か月に1回の通院注射 |
| 骨形成促進・骨吸収抑制薬 | イベニティ(ロモソズマブ):1か月に1回の通院注射 |
通院頻度は薬によって異なります。お仕事などで頻繁な通院が難しい人には、半年に1回の注射を推奨します。ご自身の希望を医師に伝え、適切な治療を受けましょう。
自己注射の方法・コツ
「骨を作る力を促進する薬」は、自己注射をする必要があります。注射器は操作が簡単なペン型で、針も細く作られています。自己注射のステップを以下に示します。
- 石鹸で手を洗い、注射する場所をアルコール綿で清潔にする
- 注射器の針を皮膚にまっすぐに当て、ボタンを押して薬液を注入する
- 使用済みの針は、安全に捨てるための専用容器に入れる
自己注射を安心して続けるためには、注射する場所を毎回変えましょう。同じ場所に注射し続けると、皮膚が硬くなる可能性があります。注射した日を記録することも接種スケジュールの管理や医療機関での情報提供などで役立つため、重要です。
骨粗鬆症の注射の副作用
骨粗鬆症の注射治療では、多くの場合は軽い副作用で済みますが、まれに注意が必要な症状が現れることもあります。一般的に見られる副作用と、重篤な副作用について解説します。
一般的な副作用(注射部位の痛み・腫れ・発熱など)
注射治療後に注射部位の赤みや痛み、腫れ、かゆみが現れる可能性があります。多くの場合、症状は一時的で、時間が経てば自然に治まります。注射部位以外にも、体全体に症状が現れることもあります。以下に主な症状を示します。
- 発熱や頭痛
- 関節や筋肉の痛み
- 吐き気やめまい、だるさ
治療を始めたばかりの頃に出やすい傾向があります。多くの場合、数日で軽くなりますが、症状が長引いたり、日常生活に影響が出たりする場合は我慢しないでください。
注意すべき重篤な副作用(顎骨壊死・非定型大腿骨骨折)
骨粗鬆症の注射治療では、顎骨壊死(がっこつえし)と非定型大腿骨骨折(ひていけいだいたいこつこっせつ)には注意が必要です。顎骨壊死は、骨吸収抑制薬の影響で、顎の骨の修復力が弱まり、細菌感染などをきっかけに骨が露出して治りにくくなる状態です。
非定型大腿骨骨折は、ビスホスホネート製剤を長期間使用している場合に、まれに起こる骨折です。転倒などの原因がないにもかかわらず、太ももの付け根周辺に骨折が起こるのが特徴です。骨折する前に、太ももや足の付け根に鈍い痛みを感じることがあります。
治療中の注意事項
骨粗鬆症の注射治療を安全に続けるためには、日常生活での配慮が大切です。治療を中断する際に注意すべき点や、歯科受診・食事・運動の際に気をつけたいポイントを説明します。
治療中断によるリスク
骨粗鬆症の注射治療での注意点は、ご自身の判断で治療を中断しないことです。自己判断でやめてしまうと、骨折のリスクが急激に高まることがあるため、危険です。
特に「骨が壊れるのを防ぐ」タイプのデノスマブという薬は注意が必要です。骨を壊す細胞の働きを抑制しますが、注射をやめると抑えられていた骨を壊す働きが活発になる「リバウンド現象」が起こります。治療の継続が難しいと感じた場合は、医師にご相談ください。
歯科受診・食事・運動の注意点
治療効果を高め、副作用のリスクを減らすためには、歯科受診や食事、運動が大切です。歯科受診では、以下の点を心がけましょう。
- 定期的に歯科検診を受け、虫歯や歯周病の治療を済ませておく
- 歯科を受診する際は「骨粗鬆症の注射治療中」と伝える
- 抜歯などが必要な場合には、事前に整形外科の主治医に相談する
丈夫な骨を作る基本は、骨の材料となる栄養を食事から摂ることです。研究では、骨の強さは遺伝による影響が大きい一方で、食事や生活習慣などの環境要因も全体の約3〜4割を占めることが示されています。以下の栄養素をバランス良く摂ることを意識しましょう。
- カルシウム:骨の主成分
- ビタミンD:カルシウムの体内への吸収を助ける
- ビタミンK:骨の質を高め、丈夫な骨作りをサポート
- タンパク質:骨のしなやかさを保つコラーゲンの材料
骨は適度な負荷がかかることで強くなります。日常生活に軽い運動を取り入れることで、骨に良い刺激を与えましょう。運動には、骨を強くするだけでなく、筋肉を鍛えて転倒を防ぐという重要な目的もあります。
まとめ
骨粗鬆症の注射治療は、骨折を防ぐ効果が期待できます。注射薬にはさまざまなタイプがあり、ライフスタイルに合わせて、月1回や半年に1回の通院で済むものも選べます。副作用が心配な人は医師と相談して、安全に治療を進めることを推奨します。
骨粗鬆症の注射治療で大切なのは、自己判断で治療を中断しないことです。不安や疑問があれば一人で抱え込まず、ささいなことでもご相談ください。
当院(大室整形外科 脊椎・関節クリニック)では、骨粗鬆症が心配な方や骨密度の低下を指摘された方に対して、専門医が丁寧に相談に応じます。「ちょっとした衝撃で骨折しないか不安」など気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
参考文献
- Kanis JA, Johansson H, McCloskey EV, et al. Previous fracture and subsequent fracture risk: a meta-analysis to update FRAX. Osteoporosis International, 2023, 34巻, 12号, p.2027-2045
- Prentice A. The relative contribution of diet and genotype to bone development. Proceedings of the Nutrition Society, 2001, 60, 1, p.45-52
