コラム

椎間板ヘルニア手術のリスクとは?合併症と失敗を避けるポイント

椎間板ヘルニアの治療では、症状や経過によって手術が選択肢となります。手術方法には、顕微鏡や内視鏡を用いた体への負担が少ないものから、重症例に対する固定術までいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。

ただし、すべての外科手術には一定のリスクが伴います。神経損傷や感染症、血栓症といった合併症の可能性もゼロではありません。

この記事では、椎間板ヘルニアの手術の種類とリスク、失敗を避けるためのポイント、手術以外の選択肢について、医学的根拠にもとづいて解説します。適切な治療法選択のための参考情報として、医師との相談時にご活用ください。

当院では、椎間板ヘルニアをはじめとした整形外科疾患に対し、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。不安な症状がある方も安心してご相談いただけるよう、以下の記事で診察の流れや受付方法を詳しくまとめています。
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椎間板ヘルニア手術の種類

椎間板ヘルニア治療にはいくつかの手術法があります。主に行われている以下の3つの手術法を解説します。

  • 顕微鏡下椎間板摘出術:傷が小さく回復が早い
  • 内視鏡下椎間板摘出術:さらに体への負担が少ない
  • 椎体間固定術:重症例向けで固定力が高い

納得のいく治療を受けるためにも、事前に手術法について理解を深め、気になる点は医師と十分に相談することが大切です。

顕微鏡下椎間板摘出術:傷が小さく回復が早い

顕微鏡下椎間板摘出術は、3〜4cmほどの小さな切開を行い、手術用の顕微鏡で視野を拡大しながら、ヘルニア部分(飛び出した椎間板)を取り除く方法です。従来のように筋肉を大きく切り開く必要がないため、体への負担が少ない手術法です。

顕微鏡下椎間板摘出術の大きなメリットは、傷口が小さいため術後の痛みが少なく、回復が早い点です。入院期間も比較的短く、早期の社会復帰が期待される場合があります。デスクワーク中心の方の場合、状態によっては1週間ほどで職場復帰ができるケースもあります。

仕事内容や患者さんの状態によって回復期間には個人差があるため、担当医との相談が不可欠です。

顕微鏡を使っていても視野には限りがあるため、神経を傷つけてしまうリスクもあります。まれではありますが、傷口の感染や血栓(血のかたまり)ができるなどの合併症が起こる可能性もあります。

内視鏡下椎間板摘出術:さらに体への負担が少ない

内視鏡下椎間板摘出術は、1〜2cm程度の小さな切開部から内視鏡(小型カメラ)を挿入し、モニター画面を見ながらヘルニアを取り除く手術法です。顕微鏡下手術よりもさらに傷口が小さく、より体への負担が少ないのが特徴です。近年では、内視鏡下椎間板摘出術が有効性・安全性の面で良好な結果を示す研究もあり、信頼性の高い手術として注目されています。

内視鏡下椎間板摘出術の代表的な手術法がMED法とPED法です。MED法では、内視鏡で拡大された映像を見ながらヘルニアを取り除きます傷が小さいため、抜糸の必要がなくテープで固定するだけで済み、術後は早期に歩行が可能です。

施術時間は平均30~40分程度と短く、術後3時間で歩行を許可し翌日退院となる場合がほとんどです。社会復帰までの期間も、1週間~10日間と比較的短期間での回復が期待できます。

内視鏡下手術の主なメリットは、切開が小さいことにより術後の痛みや出血が少なく、入院期間が短縮できる点です。手術後の回復も早いため、日常生活や仕事への復帰もスムーズに進む可能性があります。一方で、狭い視野での操作となるため、医師には高度な技術が求められます。

以下の記事では、椎間板ヘルニアで歩けないほどの激痛に襲われた際の応急処置や、すぐに受診すべき症状の見極めポイントについて詳しく解説しています。
>>【椎間板ヘルニア】激痛で歩けないときの緊急対処法と受診目安

椎体間固定術:重症例向けで固定力が高い

椎体間固定術は、椎間板が大きく飛び出して神経を強く圧迫している場合や、複数の箇所にヘルニアがあるような重症の椎間板ヘルニアに対して行われる手術法です。不安定になった椎骨同士を、金属製のインプラント(ねじやプレートなど)でしっかり固定することで、神経の圧迫を取り除き、痛みやしびれなどの症状を改善します。

椎体間固定術のメリットは、重度のヘルニアに対しても効果が期待できる点です。しかし、他の手術法と比べて切開範囲が広く、術後の痛みや回復に時間がかかる場合があります。入院期間も2週間程度と長めです。また、術後のリハビリテーションも重要です。

椎間板ヘルニア手術のリスク

椎間板ヘルニアの手術は、痛みやしびれを改善するための有効な治療法ですが、すべての手術には一定のリスクが伴います。椎間板ヘルニア手術に伴う主なリスクについて、以下の項目を解説します。

  • 神経損傷
  • 感染症
  • 血栓症
  • 硬膜損傷・脳脊髄液漏
  • 再発

大切なのは、手術にともなうリスクと効果のバランスを正しく理解し、医師とよく相談のうえ、納得のいく治療方針を選ぶことです。

神経損傷

神経損傷とは、体内の神経が手術などの影響によって傷つくことを指します。手術中に神経が損傷する可能性はごくわずかですが、完全にゼロではありません。顕微鏡や内視鏡を使って慎重に操作を行っても、神経に触れたり圧迫が加わったりすることで、ダメージを受けるリスクがあります。

損傷が起こるのは、手術部位に近い神経が多く、症状は損傷した神経の場所や程度で異なります。足首の動きに関わる神経が損傷すると、足首が上がりにくくなる、つま先立ちがしづらくなるといった運動障害が現れることがあります。

排尿・排便に関わる神経が損傷すると、尿が出にくくなる、便が出にくくなる、または逆に尿漏れや便失禁といった症状が現れる場合もあります。神経損傷は重要な合併症の一つですが、適切な技術を持つ医師による手術では発生頻度は比較的低いとされています

万が一、神経損傷が起きた場合には、術後にしびれや痛みが続いたり、動きにくさが残ったりすることがあります。効果には個人差がありますが、多くの場合は適切な治療やリハビリテーションにより、症状の改善が期待できます。

感染症

感染症とは、体内に細菌などが侵入し、炎症や発熱などの症状を引き起こす状態です。椎間板ヘルニアの手術でも、手術中に細菌が体内に入り込むことで、手術部位に感染を起こす可能性があります。主な症状は、発熱、傷口の赤みや腫れ、痛み、膿の排出などです。

感染症を防ぐため、手術室は清潔に保たれ、手術器具は滅菌されています。手術後には抗生物質を投与することもあります。こうした対策によって感染症のリスクは最小限に抑えられていますが、全く起こらないとは限りません。

もし術後に傷口が赤く腫れる、熱が出る、痛みが強くなるといった症状が現れた場合は、すぐに医療機関へ連絡してください。早期に治療を開始することで、感染の拡大や重症化を防ぐことができます。

硬膜損傷・脳脊髄液漏

背骨の中には、脳や脊髄を保護する硬膜(こうまく)という膜があり、内側は脳脊髄液(のうせきずいえき)という透明な液体で満たされています。椎間板ヘルニアの手術中に硬膜が損傷すると、脳脊髄液が漏れ出すことがあります。脳脊髄液が漏れると、姿勢を変えたときに悪化する強い頭痛や吐き気が生じる場合があります。

まれですが、髄膜炎(脳や脊髄を包む膜が炎症を起こす病気)などの感染症を引き起こすリスクもあります。リスクを防ぐためには、手術前に正確な画像診断を行い、豊富な経験を持つ医師が担当することが重要です。

万が一硬膜が損傷した場合は、安静による経過観察やドレナージ(体液の排出処置)、場合によっては再手術が必要となることもあります。脳脊髄液漏は深刻な合併症の一つですが、適切な処置を受ければ改善が期待できます。

再発

椎間板ヘルニアの手術は、再発のリスクも存在します。手術後に同じ部位で椎間板が再び飛び出すこともあれば、別の部位で新たなヘルニアが発生することもあります。再発を防ぐためには、術後のリハビリテーションの継続が大切です。腰に負担をかけない生活習慣や正しい姿勢の維持、適度な運動も再発予防につながります。

ある研究では、椎間板ヘルニアの手術後に再発(再ヘルニア)が起きたケースは全体の約5.5%と報告されています。手術が成功した場合でも、術後の経過を慎重に見守ることが重要です。

以下の記事では、椎間板ヘルニア手術の費用相場や保険適用の条件、自己負担額の目安などについて詳しく解説しています。治療を検討している方や費用面で不安のある方は、ぜひ参考にしてください。
>>椎間板ヘルニア手術の費用相場は?保険適用の条件や自己負担額を解説

手術の失敗を避けるポイント

できる限り安全に、そして納得のいく治療結果を得るためには、手術前から術後にかけての「準備」と「選択」がとても重要です。手術の失敗を防ぐために知っておきたい3つのポイントを、以下の項目に沿って解説します。

  • 経験豊富な医師を選ぶ
  • セカンドオピニオンを取り入れる
  • 術後のリハビリテーションをしっかり行う

経験豊富な医師を選ぶ

腰椎椎間板ヘルニアの手術は、神経や血管の近くで行う繊細な処置です。そのため、手術の成功には、医師の経験と技術が大きく影響します。医師を選ぶ際には、脊椎外科専門医あるいは整形外科専門医の資格を持っているかや、手術の実績を確認することが重要です。

最近では、多くの医療機関がホームページで医師の経歴や専門分野、対応している疾患・手術方法などの情報を公開していますので、積極的に活用しましょう。

セカンドオピニオンを取り入れる

セカンドオピニオンとは、現在治療を受けている医師とは別の医師に意見を求めることです。セカンドオピニオンにより、異なる視点からの診断・治療方針の提案を受け、より適切な治療選択の検討が可能です。特に、手術を受けるかどうか迷っている場合は、セカンドオピニオンを検討してみましょう。

医師によって診断や治療方針が異なることもあります。実際、腰椎や仙骨の構造には個人差があり「腰骨仙骨遷移椎(ようこつせんこつせんいつい)」のように、通常と異なる骨の形をしている人もいます。こうした特徴があると、手術の難しさが変わることも報告されているため、複数の医師の意見を聞いて比較することが大切です。

術後のリハビリテーションをしっかり行う

手術が成功しても、術後のリハビリテーションを怠ると、改善が得られなかったり、日常生活に戻るのが遅れたりすることがあります。リハビリテーションは、手術後の痛みや腫れを軽減するだけでなく、筋力や柔軟性を回復させ、日常生活への復帰をスムーズにするうえで重要です。

リハビリテーションの内容は、手術方法や患者さんの状態によって異なりますが、主に以下の3つの方法があります。

  • 運動療法(筋力トレーニングやストレッチなど)
  • 物理療法(温熱や電気刺激など)
  • 作業療法(日常生活動作の訓練など)

リハビリテーションは、手術を受けた医療機関で行うこともあれば、自宅近くの施設で受けることもできます。大切なのは、医師や理学療法士の指導のもと、無理なく計画的に取り組むことです。

再発を防ぐには、適切なリハビリテーションを継続しつつ、日常生活でも腰への負担を減らす工夫が欠かせません。正しい姿勢を保つ、重いものを無理に持ち上げないなど、小さなことの積み重ねが再発予防につながります。

以下の記事では、椎間板ヘルニアの手術が必要になるタイミングや、医師が手術を判断する基準、治療法の選択肢について詳しく解説しています。手術を検討している方や、治療の進め方に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアの手術が必要なタイミングは?判断基準と治療法を徹底解説

手術以外の椎間板ヘルニアの治療法

椎間板ヘルニアの手術にはリスクが伴うため、まずは手術以外の治療法を試みるのが一般的です。保存療法と呼ばれる以下の治療法は、手術を避けたい方、症状が軽い方、手術のリスクが高い方などに適しています。

  • 薬物療法
  • 神経ブロック注射
  • 牽引療法

医師とよく相談し、納得したうえで治療を進めていきましょう。

薬物療法

薬物療法は、椎間板ヘルニアの痛みや炎症を抑えることを目的とした治療法です。内服薬、外用薬、注射薬などさまざまな種類があり、患者さんの症状や状態に合わせて使い分けられます。

まず、痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が広く使用されます。非ステロイド性抗炎症薬には様々な種類があり、炎症を引き起こす物質の生成を抑えることで、痛みや腫れの軽減が期待される場合があります。

次に、神経の働きを調整する薬が用いられます。神経の過剰な興奮を抑えることで、痛みやしびれの軽減が期待され、特に坐骨神経痛のような神経痛を伴う椎間板ヘルニアに対して有効とされています。

また、筋肉の緊張を和らげる作用を持つ薬として、筋弛緩薬が使用されます。椎間板ヘルニアでは、腰回りの筋肉が強く緊張し、痛みが増す場合があります。筋弛緩薬は、緊張した筋肉をほぐし、痛みの軽減に効果があるとされています。薬物療法は、比較的副作用が少ない治療法ですが、全く副作用がないわけではありません。

非ステロイド性抗炎症薬は胃腸障害を起こす可能性があり、高齢者や胃腸の弱い方は注意が必要です。神経の働きを調整する薬は、眠気やめまいなどの副作用が現れる場合もあります。薬を服用する際には、医師の指示に従い、副作用に注意しながら服用することが重要です。

神経ブロック注射

神経ブロック注射は、痛みを感じている神経の近くに直接薬を注射する治療法です。炎症を抑えるステロイド薬や、神経の働きを調整する薬などが用いられます。薬物療法で十分な効果が得られない場合や、痛みが強い場合に有効です。

神経ブロック注射は、痛みの原因となっている神経に直接作用するため、効果が早く現れるというメリットがあります。内服薬のように全身に作用するわけではないため、副作用も比較的少ない傾向です。注射による痛みや内出血などのリスクもわずかながら存在します。

神経ブロックの種類には、硬膜外ブロック、神経根ブロックなどいくつか種類があり、ヘルニアの部位や症状によって使い分けられます。腰椎椎間板ヘルニアで坐骨神経痛がある場合は、神経根ブロックが選択されることが多いです。

牽引療法

牽引療法は、機械や重りを使って、腰や首を引っ張ることで、椎間板にかかる圧力を軽減する治療法です。牽引療法によって、ヘルニアで圧迫された神経を解放し、痛みやしびれを和らげます。牽引療法は、他の治療法と組み合わせることが多く、薬物療法や理学療法などとの併用で、より高い効果が期待される場合があります。

牽引療法単独では効果が限定的である場合もあります。牽引によって一時的な痛みの悪化や、めまいなどの症状が現れる場合もあるため、医師の指示に従って行うことが重要です。椎間板ヘルニアの治療法は多岐にわたり、患者さん一人ひとりの症状やライフスタイル、全身状態などを総合的に判断して最適な治療法を選択します。

まとめ

椎間板ヘルニアの手術には、顕微鏡下や内視鏡下、椎体間固定術といった種類があります。どの手術法が最適かは、症状の重さやライフスタイル、全身状態などを総合的に判断して決定されます。手術には神経損傷や感染症、血栓症、硬膜損傷、再発といったリスクも伴います。

経験豊富な医師を選び、セカンドオピニオンも活用しましょう。術後のリハビリテーションをしっかり行えば、リスクを軽減し、手術の成功に寄与する可能性があります。手術以外の治療法として、薬物療法や神経ブロック注射、牽引療法などもあります。

治療法の選び方や生活習慣の整え方をしっかり把握しておくことが、回復への近道となります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの具体的な治療法や、回復を助ける日常生活の工夫について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの治療法!回復に役立つ生活習慣も紹介

参考文献